熟事務員 Ⅱ ⑩
「おはよう。」
「大丈夫?」
「熱は?」
「咳とか鼻水とかは?」
「お医者さんは 何だって?」
「旅行は?、行けそう?」
「楽しみに してたのよぉ」
「部屋割りまで 私達で決めて。」
2人が 矢継ぎ早に、俺の答など待たない。
俺
「チョッとチョッと」
「そんなに 次から次に…、答えるひまが無いんすけど」
2人が
「そうよね」
「ゴメンね」
「で?、どうなの(お医者さん)?」
「(旅行)行けそう?」
俺
「ほら!。また そぅやって!」
2人が
「ゴメン、ゴメン」
俺
「ほぼほぼ 良くなったんすけど、まだ鼻水が…」
「(鼻の下を指でこすりながら)ヒリヒリしちゃつて、ヤッパリ吸ってもらったのが 良いんすかね?」
悦子
「だから言ったでしょ?」
「遠慮するからぁ。」
俺
「長老の前ですよ、遠慮もしますって。」
悦子
「その長老と部屋割り 一緒よ。あと 板東さんと。」
俺
「3人すか?」
悦子
「そぉよぉ。あの2人なら、朝 俊くんが居なくても 騒ぎたてないでしょ?」
朱美
「えぇ~ッ、そぅいう事だったのォ?」
悦子
「あのねッ!、あんた 白々しいわよッ!」
「あんた 専務に何て説明した?、しずちゃん のこと」
「仕事で接する事も あまり無いので 親睦をはかるには良い機会かと思いまして。なんて調子の良いこと言っちゃって 私達と同じ部屋に したんじゃないの?」
「私達と3人じゃ 部屋になんか居ないわよ。どうせなら 荷物ごと 誰かんとこ 行っちゃえば良いのに。って言ってたのは 何処の誰!?」
朱美
「それは そうだけど…。」
悦子
「…そぅいう事だったのぉ?。じゃないわよ!」
俺
「まぁまぁ。」
「ところで しずちゃん って、あの しずちゃんすか?、確か 去年の入社 でしたよね?。」
「可哀想に お局様2人と3人部屋ですか?。そりゃぁ逃げ出したくなりますね。」
「でもあの娘、本名 違うんすよね?」
悦子
「なんてったっけ?、朱美ちゃん?」
朱美
「えっとね。岡本だか 岡田だか、岡が付いたと思うんだけど…?」
悦子
「なに それぇ?。あんたが選んだんでしょ?」
朱美
「だってぇ。みんな しずちゃん って呼んでるじゃない?。シズエ とか シズ子 とか だと思ったら 違うのよね。」
俺
「…らしいっすね。まぁ あんだけ似てればねぇ。」
悦子
「なんだかね、コンパとかの ウケ狙いで 普段からでも寄せてるらしいわよ。」
朱美
「そぅなんだ?、だから しずちゃんなんだぁ。」
俺と悦ちゃんは 頭を抱えた。
天然と言えば聞こえはよいが、結構な頻度で 抜けた事を 平気で言ってのける。
俺
「で?、バスはどうなったんすか?」
悦子
「去年と一緒よ。」
「私達と板東さんが 同じ 喫煙の3号車。」
「長老が1号車で、しずちゃんが2号車だったかな。」
「4号車には誰がいたかしら?」
参加人数にすれば 120人程度だが、直前の参加希望者とかもあるし、ユッタリ寝たいからと 毎年4台を連ねる。
そんな話しをしながらタイムカードを入れた。
この日ばかりは すぐに事務所に寄って
「すみません でした。」
と、頭を下げて回った。
翌日。旅行当日の朝は 妻に車で送ってもらった。
今年は例年よりも出発が 2時間も早い なんと 4時半出発だという。
それで直行しないと 昼に能登に着かない のだそうだ。
目的地が金沢だけなら まだしも、それが社員旅行ともなると アッチも見たい コッチも良いなぁ と、所詮 1泊で行ける所ではないらしい。
皆がみんな、「バスん中で寝てりゃぁ いいんだろ?」と、たかをくくっていた。
行程がビッシリで、想定外の渋滞なんかにつかまったら、予定箇所をとばして次の目的地をめざして なんて事もあります。
休憩時なども 時間厳守で ご協力をお願い致します。
との内容が 行程表の一番最初に でかでかと書いてあった。
行程表と言っても、能登に直行して 昼たべて、輪島塗だかを見て、宿に行って 翌日は朝市で また早いので17:30から宴会、朝市~金沢に直行して 昼食がてら散策して、直帰。
どうやら ビッシリなのは移動時間らしかった。
〔そんな強行でも行きたいかねぇ?〕とも思ったが、俺も たかをくくった 1人だった。
と言うより 今年は はなっから 観光なんぞ どぅでもよかった。
皆 眠い目をこすりながら バスに乗り込んだ。
定刻どおり バスが発車した。
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