細い首筋でした。唇だけでなく、頬も寄せてそれを感じました。抱き締める腕からは、浅井さんの身体の小ささが逐一伝達されて来ます。
遊ぶのは男友達とばかりだったので、女性の身体がこんなに小さく、こんなに華奢に出来ていることなど知りませんでした。
きっと画面では大きく見えているAVの女優さんも、実際会えばこんな感じなのでしょうねぇ。
『一旦離れよ…。一回離して…。』と浅井さんの声が耳元で聞こえました。 その言葉に、素直に従おうと僕は彼女の首筋から顔を離します。
彼女の頬と僕の頬とが擦れ合いながら、離れようとしていきます。その時にチラッと見えたのは、ルージュの薄く塗られた彼女の唇。
気がつけば、再び唇を寄せ、彼女の頬に張り付いていました。浅井さんはとっさに逃げたのでしょう、僕の唇は、彼女の口の隅にそっとキスをしていました。
25歳にして、初めてのキスでした。正面から唇と重なりませんでしたが、口の隅でもキスはキスです。こんな僕でも、女性とキスが出来たのです。
その彼女の口が開きました。『ずるいよ。』とその口に言われ、慌てて唇を離すのでした。
車内に沈黙の時間が出来ました。お互いに座席に座り直し、今あったことを考えているのでしょうか?少なくとも、僕はそうでした。
暗闇の中、離れた外灯の明かりだけが射し込んでいますが、角度的に彼女の顔は隠されていました。顔が見えないだけに、次の言葉を待つしかありません。
『どうするの?』、沈黙を破った彼女の言葉でした。彼女の言葉を待っていただけに、急に質問をされても答えられる訳がありません。
しかし、そう聞いたっきり、浅井さんは黙り込みました。僕の返事をずっと待っているのです。
そこで気が付きました。そうなのです。もう子供じゃないのです。浅井さんは、子供が欲しいのではありません。ちゃんとした頼れる男を探しているのです。
だから、お見合いしたのですから。僕もそうなのです。お見合いしたのは、僕に女を教えてくれる人を探しているのではありません。
結婚する相手を探しているから、お見合いしたのです。根本的に間違っていることに気がついたのです。
それでも、次の言葉は出て来ませんでした。経験の無さから言葉も思い浮かばないし、浮かんでも口に出そうとすると引っ込んでしまいます。恐いのです。
長い沈黙でした。僕の返事があるまで、自分からは喋らないと決めているのが、彼女の雰囲気で分かります。
僕も何度も言おうとしますが、引っ込んでしまって出ず、口を開いては閉じてを繰り返していました。
『言って。』、僕の行動を見かねた彼女がそう言いました。その言葉に後押しされ、スルッと出たのは『好きです!』と言う言葉でした。
なるほど、バリエーションの少ない僕らしいトンチンカンな答えでした。彼女の質問の返事にはなっていません。
しかし、『うん。わかったぁ~。』と聞こえ、彼女の顔が暗闇の中から現れたのです。かなりのスピードでした。
両手は僕の頭を掴まえようと、そして寄せて来る彼女の顔は、唇が一直線に僕に迫って来ました。
彼女が僕に迫り、やけにシートが擦れる『ギュュ~』と言う音が耳に残りました。何も出来ませんでした。瞬間的なことでしたので。
頭を掴まれ、そのまま唇を奪われました。柔らかい彼女の唇は、僕の唇と何度も重ねようとしていました。『ウッ…ウンッ…』という彼女の吐息が響きます。
※元投稿はこちら >>