対決
金曜の夕方、まだまだ、観光客でにぎわう祇園石段下の喫茶店、榊は、約束の少し前に来て、岩田を待った。マキが、家を出て、一週間、何とか岩田と連絡を取り、今日の約束となった。
約束の時間をすぎ、ようやく岩田が、現れた。
「榊よ。雅グループとの取引は、順調なんだってな。」
「ああ…今日は、マキのことだ。今、どこで、何をしている。」
「知らねえよ。奥さんのことなんて。」
「なんだとお…」
思わず、大きな声を出してしまう。
店内の客達も、思わず振り返ってしまった。
「岩田、お前に会ってから、よく会っていたと、マキが、言っていたんだ。でも、何もないと言い張っているが…」
「最初は、偶然に会ったんだ。間違いない。しかし、2回目以降、奥さんは、自分から来たんだぜ・・・」
「なぜ、マキが、自分から…」
「そりゃ~お前、わからんのか?お前の持ち物より、オレのが、いいからだよ。」
「なに…なんと言ういいかたや…」
店主が、飛んできた。
「大きな声をあげてもらっては、困ります。他のお客様の迷惑です。これ以上、騒ぐなら、警察を呼びますよ。」
「いやいや、失礼。申し訳ない。謝ります。」
榊は、丁重に謝罪した。
「実際、今、マキが、どこにいるのか?知らない。龍なら、知っているはずだ。」
押し問答のあげく、岩田の事務所に龍が、来て、話し合うことになった。
「岩田よ。だから、素人の女に手を出すなと言ったはずだぞ。」
「しかし…」
「もういい。今後、この話しから、手をひけ。わかったな。席を外せ。」
「榊さん、確かに奥さんは、預かっている。奥さんを我々に譲渡してくれませんか。」
「譲渡なんて。出来るわけないでしょう。」
「しかし、あなたも、既に紫乃と同棲のような生活をされている。奥さんも、そうだが、あなたも、あなただ。紫乃との関係を証明する記録も、あります。」
榊は、返事に困った。
「私も、立場が、あります…」
「なるほど、譲歩して、半年、奥さんを預かりたい。半年後、奥さんの選択に任せましょう。その間、預かり金、毎月50万円支払います。その上で、我々に融資頂いた内から、5バックマージンとして、榊さんの口座に振り込みます。」
「5」
「1000万円なら50万円、1億なら500万円、いい条件だと思いますが…」
榊は、紫乃と遊ぶ金も、ほしかった。マキと離婚となると、世間体…むしろ、銀行内部の立場もあった。定年まで、あと10年、役員になるための、銀行内の接待にも、金が、かかる。こんな機会は、二度とない。
「半年間ですね。半年後に再度、交渉ですね。」
「最後に、一度、会いたいのですが…」
「無理です。でも、メールで、近況報告させますよ。月曜に、今月分として、50万円、振り込みます。それと、大阪難波の土地の件、打ち合わせですからね。」
「わかりました。」
榊は、マキの貸し出しを承諾した。
龍は、つくづく思った。
(馬鹿な銀行員だ。一度、バックマージンの味をしめたら、泥沼化するのは、目に見えてる。振り込みでは、なく、無記名債権にするとか、知恵を絞れないのかな。榊も岩田も、レベルは、同じだな。振り込みは、岩田興産から、させるしかないな。)
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