阪急京都線の特急が、桂駅を通過し、暫くすると、電車は、地下にもぐり、ふっと気がついたマキは、大宮駅から上七軒に帰らず、河原町で、買い物して、帰ることにした。
父の月命日のお参りに、大阪天下茶屋の実家に帰ったが、兄夫婦のお嫁さんとは、肌が、合わず、早々に帰ってきた。
父は、2年前に病気でなくなり、母は、マキが、18歳の頃、20数年前に、近くの男と、駆け落ちのように、姿を消した。
河原町の地下から地上に上がると、平日なのに、観光客で、にぎわっていた。五月晴れの暑い日、マキは、少し休憩しようと、何回かいったことのある純喫茶店に向かった。
先斗町から少し入った、観光客も来ない、落ち着いた雰囲気が、好きだった。
クラッシックの流れる店内で、アイスティーを飲みながら、もう月命日に大阪に行くのも、やめようかと考えていると、店内奥から、男が、きて、強引に前の席に座った。
「やあ、榊の奥さんじゃないか。」
マキは、一瞬、息を飲んだ。その男は、岩田と言う主人の榊とは、中学までの同級生だった。ただ、中学の頃、グレてしまい、高校も進学せず、遊びに夢中になり、いかがわしい連中の仲間入りし、近所の噂では、何度か傷害事件を起こし、警察の世話にも、なったらしい。
今年の正月、北野天満宮に初詣に、行ったとき、マキの事を、舐めるような目で、見られた時、蛇に睨まれた蛙のようで、恐ろしい思いをした。
榊も、「あいつは、ヤクザな事をしているから、あまり、関わりたくない。」と日頃から、言っていた。
「岩田さん、こんにちは。」
「ああ~えらい所で、会ったね。買い物かな。」
「大阪の実家に行っていました。今から、帰る所です。」
「そうなんや。大変やな。榊は、元気?」
「おかげさまで、」
「そうや、この先の鴨川沿いに割烹の店、オープンしてね。ちょてと、見てくれないかな?親父が、残したアパートを売って、勝負するんやわ。」
「でも、遅くなりますし。」
「歩いて2~3分や。手間はとらさないよ。喫茶店の伝票をとりあけ、さっさと会計をすまされると、マキは、ついていくしかなかった。
岩田は、ある人間から、マキの行動を監視するように依頼されていた。監視対象者が、同級生の妻であり、よもや、日頃から、いつかは抱いて、自分の物にしょうと思っていたマキとは、思わなかった。配下の連中を使い尾行していたのだ。
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