菜々子さん_くちゅくちゅだね その15
外はもう、秋の気配を漂わせている。
あれから数か月、菜々子はまだ妊娠していなかった。
夫、一貴は月の半分は出張で家に居ない。
その度に貴行と肌を併せてきたが、一向にその兆候がない。
焦ってはいなかった。
ただ、不安ではあった。
夫と彼は兄弟である。
もし、同じ症状の疾患を持っていたとすれば。
彼女はもう、なりふり構ってはいられない。
貴行に検査を受けてもらうよう、頼んでみることにした。
夕飯の時に、彼女は切り出した。
「貴行さん、あの、 検査受けてみる気はある?」
「ん?、 検査?」
「そう、 あのぅ、 その~、」
「あ、いや、その・・・ 生殖機能のやつなら、もう受けましたよ」
「えっ?、 ほんとに?」
「ええ、 全く異常無しだって。 自分も兄貴の件でチョット不安だったし」
菜々子は嬉しかった。
彼が先回りをして、行動していてくれた事が。
気配りの上手な人だと感動した。
だったら、自分も頑張らなければ。
彼女には一つの計画があった。
秋晴れの或る日の朝、貴行は今、最寄りの駅前に居る。
もうすぐ菜々子の車が来るはずだ。
これから、彼女の車で草津温泉へ向かうのだ。
だが、さすがに旅姿で家から二人一緒に出掛けるのは気が引ける。
世間の目もある。
程なくして彼女と合流し、目的地へと出発した。
関越自動車道に乗って渋川伊香保インターチェンジを目指す。
そして、そこからは一般道で草津まで。
途中、サービスエリアで休憩したり買い物をしたり、楽しいドライブである。
そして、午後2時前には現地に到着した。
温泉地中央の湯畑から少し歩いたところにある、小高い丘の上に建つ洒落た佇まいのリゾートホテル。
客室露天風呂付きの広い空間とベッドルーム。
貴行は目を見張った。
「義姉さん、 ここ、滅茶苦茶高かったでしょう?」
それを聞いた菜々子が
「ふふ、 これ位、主婦の私にだって余裕はあるのよ」
と言って、煙に巻いた。
さて、何はともあれ温泉である。
先ずは二人別々にはなるが、大浴場でのんびりとお湯に浸かる。
広い空間、眺めの良い景色、そして温泉の匂い。
気持ち良かった。
だが彼には不可解な旅行である。
何故、という感じであった。
しかし、まあ、彼女の企画だからと、あまり深く考えないようにした。
逆に、菜々子は綿密な計画に基づいて行動していた。
前回の生理が終わってから逆算すると、今が一番受精し易い身体なのだ。
そして、貴行にはリラックスしてもらって、出来るだけ濃厚な精液を注ぎ込んで貰いたい。
そんな気持ちがあったのだ。
今晩、泊まって明日は帰宅に就く。
負けられない戦いが、そこにあった。
つづく
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