菜々子さん_くちゅくちゅだね その10
貴行は深い眠りから目を覚ました。
カーテンを通して朝の光が差し込んで来る。
「ここは、・・・」
彼は菜々子の寝室でそのまま寝てしまった。
彼女の姿は無い。
部屋を出て居間に行くと、菜々子がキッチンで朝食を作っていた。
「おはようございます」
と貴行が挨拶をすると
「あっ、おはようございます」
「ごはん、もうすぐ出来ますから」
「シャワーを浴びて来てください」
と彼女に言われてしまった。
不思議な感覚である。
そもそも取材等で出かける以外、滅多に早起きなどしない貴行であった。
だが、身体を洗って着替えると気持ちが一新する。
軽くなった心で食卓についた。
すると菜々子が味噌汁を持ってこちらに来た。
綺麗だ。
いつもの清らかな雰囲気の菜々子である。
「どうしたの?」
彼に見つめられ、不思議に思った彼女が聞いた。
「あっ、 いや、何でも」
彼は、そう答えるしかなかった。
いつもは、ここで朝食を摂る事などない。
全てが初めて尽くしの体験だ。
なんか、いいなと彼は思った。
しかし、こうやって菜々子と差し向かいで朝食を食べていると、昨夜の出来事が夢の様に思えて来る。
そしてその彼女は、最後に、確かにこう言ったのだ。
赤ちゃんが欲しいと。
朝食が終わって食器を洗いながら、菜々子が言った。
「今日、お時間あります?」
「よかったら、どこか出掛けません? 車で」
彼は二つ返事で
「あ、はい! よろこんで」
と言って応えた。
車を運転しているのは貴行。
家を出て、暫くして首都高に乗りレインボーブリッジを渡って直ぐ、台場で降りた。
目指す場所は、お台場海浜公園だ。
近くの駐車場に車を置いて、二人して公園まで歩いて行く。
彼はこの辺りの雰囲気が好きだった。
海が見える。
都心からも近い。
そして、今日はいい天気であった。
二人でベンチに座って広い海を見ている。
暫くして、いきなり菜々子が言った。
「昨夜の私、 幻滅した?」
「でもね、 あれが本当のわたし」
「隠したって、しょうがないもんね」
貴行は暫く何も言えなかった。
何と言っていいのか、分からなかった。
そして菜々子が明るい声で
「渋谷に美味しいフレンチがあるの、良かったら行かな・」
貴行は、その言葉を途中で遮って言った。
「僕も、昨日の僕が本当の自分」
「義姉さんには隠さない、だから」
菜々子「だから?」
「昨日の最後の言葉は本当ですか?」
彼女は少し沈黙してから
「本当よ」
と言った。
途中、彼女の案内で、慣れないフレンチに寄って貴行は帰路に就いた。
帰りの車内では、コスプレの話で盛り上がった。
「私だって、若い頃はイベントでブイブイいわせてたのよ」
菜々子が自慢した。
そりゃあ、こんな綺麗な女の子がコスチュームを着てたら、みんな挙って寄って来るに違いないと彼は思った。
つづく
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