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1か月かけて私が考えたこと。
ひとつは、憎悪の対象になった○美の叔父とその長男をどうしてやるかだった。
正直、すべてぶちまけて、二人を社会的に抹殺してやりたい。
実際、そうしてやろうと思った。
しかし、その行為がもたらすであろう結果を考えた。
私が叔父や叔父の長男の過去の行いを知っている理由に説明がつかない。
そして、何より、どうやっても、○美が幼少の頃から守ろうとしてきた、両親の心の平穏を粉々に打ち砕くという結果につながり、それを避ける方法が思いつかなかった。
私の行動によって引き起こされる事態を考えると、単純に叔父たちに制裁を加えることは、安っぽい正義感から来る独りよがりの行動に過ぎないだろう。
最も納得いかない方法だが、私もまた、○美の過去の秘密を、自分の心の中だけに留めることにした。
もうひとつ考えたことは、これからも○美と夫婦関係を続け、将来をともに生きるのかということだった。
○美の過去を知って以後、○美との離婚を決めていた私の心は一時期揺れたこともあった。
しかし、私はやはり○美との別れを決意した。
○美のことを決してけがれた存在だとは思わない。
しかし、○美の真の理解者は私ではないことがわかる。
Uの○美に対して気持ちも、根底には○美に対する誠実な気持ちがあるのもわかった。
もはや、○美が一緒に生きていくべきはUだろう。
○美の叔父や、叔父の長男に憎悪の念を抱いてはいるが、私のこれまでの行動はどうだっただろうか。
私もまた、○美の叔父や叔父の長男と同等に外道だった。
そして、私は完全にUに敗北した。
5年ほどの結婚生活だった。
やはり○美に別れを告げることにした。
年が変わった1月半ばのある晩、私は○美に別れを切り出した。
私
「○美、ちょっと大事な話があるんだ。座ってくれないか。」
○美
「なに?仕事の話?」
私
「...いや、おれたちの話...」
○美
「なに?」
私
「単刀直入に言うよ。離婚しよう。」
○美
「えっ?!なに?なんて言ったの?」
私
「おれと別れてほしい。」
○美
「なっ、なんで?!どうしたの?!意味わかんないよ?」
私
「これも単刀直入に言うよ。○美、好きな人がいるね。」「そして、その人との付き合いも、もう短くはない。」
○美
「!!!」
「なっ、なに?!なんで?!」
私
「いや、いいんだ。Uさんとお付き合いしているね。それも、特別な関係だ。」
○美
「えっ?! なに?! Uさんは先輩よ?! 付き合いもなにも、仕事が一緒なだけで!!!」
私
「いや、いいんだ、もう分かってしまったことだから...嘘はつかなくていいんだ...」
○美
「.....」
私
「おれ、かなり詳しいことまで知ってるんだ...○美に嘘はついてほしくない...」
○美
「...特別な関係って?」
私
「...あまり詳しく言うのは...ある程度は言わないといけないのか...」
○美
「ごめんなさい...一緒に食事に行ったりはしたの...でも...離婚したくない!! おねがい!! もうUさんとは会わないから!!」
私
「...仕方がないか...」
私は○美に別れ話をするとき、なるべくなら○美の心をかき乱すことはしたくないと思っていた。
だが、結婚した者どうしが離婚するということは、やはりそれなりに理由を突きつけない限りは無理だと悟った。
私は一応、以前、Uが○美を○公園で緊縛調教したときに遠くから撮った画像を3枚ほど用意していた。
画像は、○美が朝礼台のようなものの上で全裸で緊縛されているもの。
全裸で緊縛された○美が、Uにペニスを挿入されているシーンを撮ったもの。
○美とUが手をつないで、○公園の駐車場を歩いているもの。
この3枚だ。
私は、○美にこの3枚の写真を見せた。
「いやぁぁぁ!!!」
「どうして?!!」
「なんで?!!」
○美は悲鳴に似た叫び声を発すると顔を真っ赤にして両手で顔を覆い、うつむいてしまった。
そして、大粒の涙を流しながらぶるぶると震えていた。
こんなことをすれば、○美がどんな反応をするか、想像はしていた。
○美の反応は、ある程度予想通りだったが、必要とはいえ、やはり見ているのが辛くなるようなものだった。
しばらくはどう声をかけようかと考えながら、ただ泣いている○美を見守るしかなかった。
「...さい.....ごめんなさい。」
やっと思いで声を絞り出したのだろう。
○美はただ「ごめんなさい」を繰り返した。
私は言葉を選んで、○美に話しかけた。
「○美、おれ、怒っている訳ではないんだ。」
「そりゃ、最初に○美とUさんの関係に気づいたときは、正直、○美に「裏切られた」とか思ったときもあった。」
「でも、そんな単純なものではないだろう?」
私の問いかけに、予想外だったといった表情で、○美が顔を上げた。
そして言った。
「...ごめんなさい...わたし汚いでしょう?」
「汚れてしまってるでしょう?...ごめんなさい」
○美はまたポロポロと涙を流している。
「いや、汚れているとは思わない。汚れてるんじゃないよ」
「おれ、話したことはなかったけど、大学のときに付き合ってた子が...まあ...少し他の人と違う子で...今の○美とUさんとの関係のようなこともあったんだ...」
「人はそれぞれ違うよ。」
「その、おれが前に付き合ってた子が少し人と違ってしまったのには、それなりの理由があったよ。」
「だから、○美にもきっと理由があるんだと思う。」
「○美が汚れてるなんて考えは、おれにはないんだ。」
○美はただ、大粒の涙を流し「ごめんなさい」「許して」「おねがい」を繰り返すだけだった。
その日は一旦話を区切り、休むことにした。
それから1週間ほどは、○美に離婚したくないとせがまれた。
私は○美の尊厳を損ねることは言わず、ただ、淡々と離婚する意思は変わらないことを説明し続けた。
○美はどうしていいかわからなかったのだろう。
けなげに、一生懸命凝った料理を作ってくれたり、先に休んでいる私の横に来てくっついて寝たりしていた。
可哀想だったが、私の意思は変わらないことを告げるばかりだった。
困った私は、使いたくない手を使った。
○美に、離婚に同意してくれなければ、○美の両親に○美とUの関係について、詳しいことを説明しなければいけなくなると伝えた。
もちろん、そんなことは死んでもするつもりはなかった。
嫌な手だったが、○美は渋々離婚に応じるようになった。
離婚の理由について、○美や私の両親には、ある程度納得できる理由を説明する必要があった。
仕方なく、約3年間、○美には私とは別に好きな人がいて、夫婦と同等の仲だったことだけを説明した。
私の両親はただ「そうか」とだけ言っていた。
親父はその頃、癌で闘病中で、孫の顔を見るのを励みにしていたので、ただ残念な知らせになり、親不孝をしてしまった。
○美の両親は、平謝りで、しばらくは○美を許してやり直して欲しいと懇願された。
私は、○美を恨んだりする感情はなく、○美が他の誰かの支えを必要とすることになった私の不甲斐なさを謝罪し、離婚の意思はそれとは別に揺るぎないものであることを丁寧に説明した。
○美の両親からも、なんとか離婚に理解をしてもらうことができた。
離婚の際の財産分与などについては、○美側が全面的に私の提示した条件を飲んでくれた。
購入していた家のローンも全額○美の家が引き受け、私は家から去ることにした。
もはやUに対し恨みなどはないが、けじめとしてUに内容証明を送り、慰謝料として80万円を請求した。
Uからはなんの反論もなく、謝罪の文書と示談書が送付され、示談書を返信すると請求通りの金額が振り込まれていた。
私は家を出るため、新しく住む場所を手配し、荷物の搬送を終え、あとは離婚届を役所に持っていくだけになっていた。
なんとか、想定していたように、○美と○美の両親を必要以上に傷つけることなく穏やかな幕引きができそうだった。
しかし、最後にそうもいかない出来事があった。
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