夕方子供たちが帰るまでに戻りたいとのことで、15時台の新幹線に間に合うよう駅に送って行った。改札口で別れを告げ、何度も振り返っては手を振り沙紀の姿は消えていった。
さみしさを覚えたがまた会えると思い直して、一旦社宅に戻った。飲み屋が営業を始めるまで充分時間があったので、沙紀に来てくれたお礼と次回は会いに行く旨のLINEを送り、少し洗濯物が溜まっていたので洗濯機を回した。
洗濯物を干し終えた頃にはすでに18時を回っていて、会社と駅の間に位置する飲み屋街に出掛けることにした。信号待ちをしている時だった。
「支店長!」そう声をかけてきたのはお客様相談担当の島田亜紀子だ。
「よう、帰りかい?お疲れ様。」
「はい、今日はクレーム等が無くて定時で上がらせていただきました。そういえば支店長今日はお休みだったんですよね。」
「ああ、ちょっと野暮用があってね。終わったんでちょっと呑もうかと思って、家から出てきたんだ。どう軽くやってくかい?」
二人きりはまずいかなとも思ったが、とりあえずビールの感覚で、とりあえず誘ってみたというところだったが、返事は「いいですよ~」だった。
親子ほど歳が離れてるんだから普通は断れよと思いながらも、若い社員と話すのもいいかと考え、「なに食べたい?」と聞くと「う~ん、焼鳥」と返ってきた。
「フレンチとかイタリアンって言うかと思ったけど、渋いところ突いてくるね~(笑)」
「普段友達とは行きづらいところに行ってみたくて、焼鳥屋さんのカウンターに座って一杯なんて、こんな時しか行けませんもの(笑)」
「こんな時ってところが引っ掛かるけど、まあいいや。それじゃ焼鳥屋に行くか。」
この地に異動してから2回ほど通った焼鳥屋に連れて行った。カウンターと机が二つほどの小さい店だが、焼き鳥の味が評判で縄暖簾をくぐった時には既に客で満杯だった。
店の親父が申し訳なさそうにしていると、もう帰るから空くよとカウンターの2人連れが言ってくれて、運よく入店することができた。
「いや~ラッキーだったね。ここはいつも混み混みだからね~」
「そうなんですね。ちょっと煙くて焼き鳥のにおいが充満して、おじさんばっかりの昭和の店って感じのところに来たかったんです~」
焼鳥を5本ずつ頼んでビールで乾杯をした。
「支店長はこの店によく来られるんですか?」
「今日で3回目かな。外で飲んでばっかりじゃないし、接待は焼鳥屋って訳にもいかないしな(笑)」
「そうなんですか。支店長は社宅でしたよね。食事はどうされてるんですか?」
「朝はちゃんと作っているし、外食じゃないときは夕食も作るよ。」
「へ~すごいじゃないですか。パンにバター塗っただけみたいな朝食じゃないんですか?」
「残念ながらパン食は苦手でさ~朝はご飯とみそ汁が基本で、あとは魚焼いたり目玉焼き造ったりと和食派だよ。」
食事の話から始まり私生活を根掘り葉掘り聞かれ、酔いも手伝ってペラペラしゃべってしまったが、沙紀につながるような発言は一切しなかった。
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