初めておばさんを連れ出せたのは、日曜日の午前中。ファミレスでした。小さな娘さんがいるので、1時間程度と時間を決めてのことでした。
おばさんを誘った僕でしたが、そこまでの恋愛感情はまだなくて、『昔に戻っておばさんと話をしたいなぁ。』とその程度の考えでした。
ところが、思っていたようにはいきません。僕も高校生から社会人になり、彼女ももうおもちゃ屋のおばさんではないのです。
最初こそ、昔の調子で話せていたのに、段々と話が途切れがちになり始めます。僕も、昔のように遠慮など気にしないで話せる子供ではなくなっていたのです。
それどころか、話の合間におばさんの胸元を見たり、目を見て話をしているようにして、おばさんの顔を隅々まで観察するようになっていました。
マジマジと見たおばさんは、5年前とあまり変わっていないように見えました。色白、細身、メガネ、ソバカス、全然変わっていません。
少し老け顔っぽかったのが、余計に変化を感じさせなかったのだと思います。そして、子供の頃に見なかった胸、シャツの上からでも小さいのが分かります。
『お店、今はどうなってるの?』と聞いて見ました。『あるけど、もう何もないよ。』と答えられ、『また行きたいなぁ。』と返して見ました。
しかし、お店とはおばさんの実家を兼ねています。さすがに、他人の僕を家に招き入れることは難しい。僕も諦めるしかありません。
それでもおばさんは考えてくれて、『2号店の方なら、見せてあげれるよ。こっちも何もないけど。』と返事をくれました。
2号店とは、ファミコン全盛の頃に、おじさんが別の場所に数年間だけ出したお店。おもちゃ屋というより、こっちは完全にゲーム専門ショップでした。
『ほんと?』とオーバーに喜ぶと、その顔を見たおばさんは、昔のような笑顔を僕に返してくれました。『なら、日を考えておく~。』と返事をくれました。
おばさんから電話があったのは、それから2週間後でした。
その日も日曜日でした。待ち合わせは、近くの市役所前。やはり、男性に家まで迎えに来られるのは、娘を持つおばさんにも抵抗があるようです。
車を走らせ、僅か10分程度の道のりですが向かいました。看板もないお店につきました。かなりの田舎ですが、当時はこんな場所でも商売になったのです。
シャッターは開けられず、横の勝手口からお店に入りました。据え付けの棚だけが残されていて、後は何もない空っぽでした。
何より、何もないお店って『こんなに狭いのか。』と思ってしまいます。子供の頃は、とても広く感じていたのに。
何もない空間を、懐かしむように見渡します。すぐに飽きていたのですが、せっかく連れてきてもらったので、『つまらない。』とは言えません。
普段から物静かなおばさん、『まだ見る?』と急かさずに、黙って僕を見てくれていました。
変な感じでした。照明もつかない、何もない薄暗いお店を男と女が黙って見渡しているのです。変な空気も流れます。意識もしてしまいます。
昔のような、なじみのお兄ちゃんと店屋のおばさんではないことを思い知らされます。きっと、もう男と女なのです。
それから、日曜日に会う機会が増えていきました。物静かでおとなしいおばさんは、僕の誘いを断ることはしませんでした。
誘えば、ついてきてくれたのです。最初は1時間だったのが、2時間、3時間と長くなっていきます。おばさんの方に意識はあったのかは分かりません。
しかし、僕の方にはもうその意識はありました。好きになっていたんです。『もう、どうなるかは分からない。』、そんな感じです。
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