もちろんあの日以降、英津子さんに連絡することなんて出来ません。彼女から連絡をしてくることはありませんから、このまま自然消滅も考えられました。
連絡もしないまま、数週間が過ぎました。この頃になると、時間が経過し過ぎてしまい、こちらから連絡をとる勇気もありません。
そんな時でした。帰り道に、車で彼女の家の前を通ると、外で娘と遊んでいる英津子さんがいました。少し慌て、気づかれないように通り過ぎようとしました。
ところが、横を通った時に彼女と目が合ってしまい、バックミラーで確認すると、こちらをしばらく見てくれていました。
男はバカです。僕を見てくれていたことで、『まだいけるんじゃないか?』なんて勘違いもします。
英津子さんの家から、僅か500mが僕の家です。しかし、車は自宅を通り過ぎ、近くの電話ボックスで停まりました。
そして勇気を出して、いつものように公衆電話から彼女に電話を掛けたのです。英津子さんのお母さんでないことを祈りつつ、呼び出し音を聞いています。
『ガチャ!』と音がなり、『筒井です。』と聞き慣れた声でした。『あの~…。』とだけ言うと、『さっき、まえ通ったでしょ?』と先に言われました。
しかし、その声のトーンが普段の英津子さんであることに安心しました。おかげで、こちらも普段通りに話が出来ます。
『忙しい?電話がないから…。』と言われ、彼女が待っていてくれたことに喜んでしまいます。そして、僕はこの前のことを謝ろうと思いました。
しかし彼女のことを考え、言うのをやめます。後ろでは娘の声が聞こえ、もしかしたら彼女のお母さんが聞いている可能性もあったからです。
それでも、『今度会える?』とだけ聞いてみました。しかし。その答えは返って来ませんでした。なぜなら、それを彼女は聞いていなかったのです。
代わりに聞こえてきた言葉に、少し驚いてしまいます。『うん…、うん…、いまお付き合いしてる人…。』と英津子さんが電話の向こうで説明をしています。
全然知りませんでした。僕なりに気を使ってこそこそしていたのに、彼女の家では周知の事実だったのです。
なんか馬鹿馬鹿しくなり、『もしかして、バレてるの!?』と聞いてみました。『うん、バレてる~。』と彼女らしくない言葉で返って来ました。
やはり、おうちだとリラックスしているのか、普段とは違う話し方が出来るようです。
そのノリに便乗し、『なら、ホテルいくよ~!』『はよ、Hしよ~!』と悪ふざけで言ってみましたが、流石に家族の手前、これはスルーされました。
そして、そこで次のデートの日取りが決定をします。今までは日曜日の午前中だったのに、今度は土曜日と決定をしたのです。
当時は週休二日が浸透しきっていない時代です。僕も土曜日はお仕事でした。ということは、必然的に『土曜日の夜』ということになるのです。
確認をするように『何時?』と聞いてみました。すると『迎えに来てくれる?』と聞かれ、『10時過ぎ…かなぁ~。少し待ってね。』と返って来ました。
ビックリでした。土曜日の夜10時ということは、娘を寝かしつけてからの時間でもあります。そして、お泊まりの可能性もあります。
何より、『家まで迎えに来て。』には驚きました。もい、お母さん公認ということです。で、僕と英津子さんは運命の土曜の夜を迎えるのでした。
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