コーヒーの香りに包まれて目覚めた。
素肌にガウンだけを羽織ってキッチンに行くと、テーブルにはパンとサラダが並び、丁度卵を焼いていた静江…。
「おはよう」
「おはよ…」
あれ!何だか元気が無いぞ…。
私の前に目玉焼きのお皿を出しても、無言のままで眼も合わせようとしない。
何か有ったのかと不安になった。
腕を掴んで太股に座らせて腰を抱く。
「どうしたの?何か怒ってるの?」
私の問い掛けに静江の表情が崩れて、大粒の涙が零れ落ちた。
首に抱きついて泣きじゃくるばかりの静江に改めて問い掛けてみた。
「何か有ったの?」
「……………」
頬を伝う涙を唇で拭い取り更に訊ねた。
「黙ってちゃ解らないよ、どうしたの?」
「今日…」
「うん?」
「今日…お家に帰らなきゃ……」
そう言うと声を挙げて泣き出した。
朝起きて食事の用意をしながら、今日は家に帰らなきゃならない、そう思っているうちに我慢が出来なくなってしまったのだと言う。
腕の中に抱きしめて背中を撫でる。
「私だって君と離れたくないよ
だけどそれは出来ない事なんだよ」
「解ってるの、解ってるんだけど……」
「君に時間が出来たら、またいつでもおいで
私はずっと待ってるからね」
涙を拭いて気持ちが落ち着いてから、食事を始めたが、この時私にはある考えが浮かんでいた。
(今日は少しでも長く一緒にいてやろう
その為には、新幹線に乗せるのではなく
私が車で送って行こう)
かなりの長距離移動になるが、運転には自信があるし大好きだ、何の問題も無い。
食事を終えた私達は、リビングに移動するとソファで繋がった。
腰かけた私に静江が向かい合わせに跨がり、より密着度の高い体位で愛し合った。
「本当にまた来ても良いの?」
「ああ、いつでもおいで」
「待っててくれる?」
「ずっと待ってるよ」
腰を前後に激しく振って、絶頂感を得た静江が私に強く抱きついた時、肉体の内部では強烈な締めつけが発生していた。
家を出た私達はその後、大型家電店やS.C.に立ち寄って、二人の息子達への土産を選んで全て宅配の手続きをした。
「こんなにいっぱいお買い物して良いの?」
「大丈夫だよ、昨日の一時所得が有るから」
音楽プレーヤーやゲームに関しては、全くと言う程知識の無い私だから、静江が息子達と連絡を取り合いながら選んでいた。
洋服や靴は彼女のセンスで決めていたのだが果たして最近の若い人が、母親が選んだ物を素直に認めてくれるかどうか……。
一通り買い物を済ませた私達は、高速道路に乗って西に向けて走り出していた。
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