健三には感じていたことがあった。
それは、時々感じた尾行の気配だった。
女房か、裕子の夫か、俺達の関係を気付いたものが興信所を雇ったと思っていたが、内心、すべて失ったとして、妻の百合が一人で生きていける金を渡せれば、裕子と生きるのも悪くないとさえ思っていた。
古い連れ込みから出て並んで歩く裕子に、
「この先で二手に分かれよう・・・」
「あなたも気づいてたの?やっぱり尾行されてるわよね・・・」
裕子も気づいていて、やっぱりすべて失っても健三と生きていくならそれも良しと思っていたそうだ。
その日、追っ手を撒いて別れた。
秋も深まった頃、裕子が言い出した。
「この週末、私と旅に出ない?」
「旅?」
「ええ、お別れの思い出の旅・・・」
「お別れ・・・そうだな、俺は定年、裕子ともお別れにしないとなあ・・・」
裕子と待ち合わせて、山間の温泉宿に着いた。
ずっと後をつけてくる車がいることは、健三も裕子も気づいていた。
チェックインしたのは、離れになっている宿だった。
庭側に専用の露天風呂があり、周りは生垣で囲われていた。
旅姿の裕子は、59歳とは思えぬ美しさで、思わず腰に腕を回し、唇を重ねた。
すぐに裸になり、露天風呂へ浸かる健三と裕子は、庭の生け垣の向こう側に人の気配を感じていたが、構わず抱き合い、湯船に座らせた裕子の女陰に唇を寄せ、女豆を啜った。
仰け反る裕子・・・
そして立ったまま湯船の縁に両手を突かせた裕子の背後から、女穴に還暦男根を捻じ込んだ。
「ハァァァァ・・・」
清楚な59歳が喘ぎ、湯船の水面が揺れた。
裕子を喘ぐだけ喘がせて、射精はしなかった。
還暦で連射は無理なので、後ほど布団の上でのお楽しみにとっておいた。
夕食を平らげ、再度湯に浸かり、布団へ・・・
庭の障子は開け放ったまま、灯りを若干落として裕子との性交を楽しんだ。
庭には、生垣を越えて侵入した人間の動きを感じていたが、結合部を庭に向けて見せびらかすようにして交わった。
「裕子、本当は俺、お前と・・・」
「ダメ・・・それは言ってはダメ・・・アァ・・・」
心から愛し合う夫婦のように、部屋中に愛を溢れさせた性交だった。
「アァァァ~~~アァアァァ~~~」
仰け反る裕子の女穴に、最後の精液を解き放った。
「俺達、完全に不倫現場を撮られているよな・・・」
「そうね・・・逃れられない証拠よね・・・」
もし離婚になっても・・・健三と裕子の決意を見せつけた性交だった。
翌日、旅行から戻り、駅裏で別れた。
「裕子、長い付き合いだったが、これからは普通の同期、部長と部次長で過ごそうや。」
「ええ・・・素敵な思い出がいっぱい・・・ありがとう。健三君・・・」
「じゃあな、恋人だった裕子にさようならだ。」
「さようなら。明日から健三君は元彼ね・・・」
切なさと爽やかさの入り混じった中、最後の逢瀬が終わった寂しさを感じていた。
でも、心のどこかで、あってはならないことだが、不倫発覚による再びの寄り添いの可能性に期待していた二人だった。
最後の逢瀬の一泊旅行から帰って以降も、何も起こらず定年の日を迎えた。
健三が花束を抱いて、部下に見送られて会社を出ると、妻の百合が車で待っていた。
「あなた、長い間お疲れ様でした・・・」
「ああ、でも、また5年は働くけどね。」
関連会社で再雇用が決まっていたが、今度は責任の軽い仕事だし、給料もずっと安かった。
でも、退職者を安く雇用することで、そのスキルは使えるから関連会社はこぞって使える退職者を奪い合った。
そういう事をするから若者の雇用が減るんだと分かっていても、昵懇にしていた男からお願いされれば安い給料で働かざるを得ない健三だった。
その関連会社も退職して、健三も65歳の年金生活に入った。
妻の百合は、62歳の可愛いお婆ちゃんだった。
「なあ、今日はいいだろう?」
「あなた・・・いつまでも元気ね・・・」
百合は、元々可愛い幼顔のせいもあるが、顔も体も還暦過ぎには見えなかった。
さすがに色気は感じるようにはなったが、老人の裸ではなかった。
ドドメ色だった女唇は黒ずみ、開けばピンクだった女穴周りさえ青紫がかってきた。
毎日とはお逝かないが、隔日なら健三の男根は65歳でも立派に勃起した。
65歳と52歳の夫婦が、仲睦まじく性交に勤しんでいた。
「ア、ア、あなた・・・アァ・・・」
可愛い声が長い夫婦生活を営んできた部屋に響いていた。
健三は、長年連れ添った百合が愛しくて、抱きしめながら腰をグラインドさせた。
「あなた・・・頂戴、あなたのを中に・・・アアァ~~~・・・」
健三は昭和20年生まれ、現在71歳になっている。
昨年、最愛の妻、百合を亡くし、落ち込んでいた。
健三が百合の遺品を整理していたら、一本のフラッシュメモリが出てきた。
今時珍しい512MBのフラシュメモリを開いた健三の目から、涙が溢れていた。
そこには、大量のワード文書があり、亡き妻百合の思いが書き綴られていた。
裕子と並んで歩く健三、そしてラブホへ入る二人の姿・・・
「あの人が、ずっと心に秘めていた愛しい人。裕子さん。綺麗な人。50代には見えない美しさ。学の無い私は家庭を守る事しかできないけど、裕子さんは違う。私は裕子さんの次でもいいから、あの人に愛されたい。今でも週に1回は欠かさず抱いてくれるあの人に感謝。」
裕子と露天風呂に入る健三、露天風呂に腰掛ける裕子の女陰を舐める健三、虚ろな表情で感じる裕子、裕子を背後から突き挿す健三、喘ぐ裕子。
薄暗がりの中でもハッキリと映る布団での性交、健三の男根を根元まで呑み込む裕子の女穴、愛し合う二人、萎えた健三の男根が抜けたあと、ドロリと溢れる健三の精液・・・最後の逢瀬の写真だった。
「あの人の精液まで裕子さんはもらっていた。子宮に注がれた精液は、妻である私だけのもののはずなのに、悔しい。でも、裕子さんの勝ち。もし、裕子さんいあの人を盗られたら私は生きていけないから。裕子さんのおこぼれでも、あの人が愛を繰れる幸せを感じて生きよう。」
健三は、ボロボロ涙を流し、
「百合・・・百合・・・」
男泣きしていた。
最後に一つだけやたら新しく、、亡くなる3か月前に記録された文書があった。
「あなた、このメモリーを見つけてご覧になっている事と思います。私は、きっと長くないと思います。私が亡くなったら、裕子さんとお付き合いなさい。裕子さんは3年前にご主人を亡くされて、今はお独りです。でも、再婚はしないで下さいね。あなたの妻は、ずっと私一人ですから。お墓で待ってますから。」
「百合・・・俺はもう裕子とは逢わないよ・・・お前の思い出と一緒に、静かに暮らすさ・・・」
健三はPCの画面に向かって呟いた・・・
健三は、裕子の夫が亡くなったのも知っていたが、老いらくの恋が導く道標は、再び愛しい人との別れを味わうことになることに気付いていたのだ。
だから健三は、一人、百合との思い出の中で余生を生きる決意をしたのだった。
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