翌日。
6時を知らせる目覚ましが鳴る。
昨日は結局風呂から上がった後、メールをすることはなかった。
いつも通り風呂上がりの肌の手入れをして夫の帰りをベットの中で待ちながらそのまま眠ってしまっていた。
その夫はまだベットの隣で眠っている。
陽子は物音を立てず寝室を出ていくと朝食の準備に取り掛かった。
紅茶を用意しパンが焼き上がる頃、夫が目を擦りながらリビングに入ってきた。
「おはようあなた。昨日も随分遅かったのね」
「あぁ、ここのところ新しいプロジェクトが動き始めてから特に忙しくてな。しばらくは遅くなると思う。場合によっては泊まりになるかもしれないな。泊まりになるかどうかは夕方になるまで分からないが」
夫はテーブルに置かれた新聞を開きながら陽子に目も合わせずに答えた。
「そう・・・忙しいんだ。仕事だから仕方ないわね・・・体には気を付けてね」
心配そうに声をかける陽子に夫はただ「そうだな」と答えただけだった。
スーツに着替えた夫を玄関まで見送る陽子。
「いってらっしゃい。気を付けて」
「いってくるよ」
力なく答える夫。
歩く後ろ姿はかなり老け込んでしまっていた。
夫が見えなくなると陽子は急いでお昼御飯の用意を始めた。
手際よく3品目容器に詰めると急いで支度を整え、職場に向かった。
「先生、今日もおかず、作ってきましたからね。」
「おぉ、それは楽しみだ。それじゃ午前の診察、頑張って終わらせなきゃね。」
「そうですね、それでは午前の診察、よろしくお願いします」
【だいぶ先生も元気になってきたわね。何より目に力があるわ】
少しずつ変わっていく陽子を見る周りの目が変わってきたことに陽子はまだ気付いていなかった。
午前の診察を終える頃、陽子は先生に呼び止められた。
「中井さん、レセプトの件なんだが集計が出来てなくて困ってるんだ。明日の休診日に出勤してまとめてもらえないかね?」
レセプトは亡くなった奥さまがやっていた。
陽子も時々手伝っていたのでだいたいのやり方は分かる。
「分かりました。じゃあいつもの時間に出勤しますね」
嫌な顔ひとつせずに答える陽子に「ほんとにうちの看護師さんが中井さんで助かってるよ。ありがとう」と先生は明るく微笑んで言った。
【せめて夫もこんな笑顔を見せてくれたらな・・・】
なんとも満たされない気持ちが陽子の心の奥底から湧き始めていた。
近くにいるはずの夫とは心の距離を感じ、全くの他人からは女として扱われる。
このギャップに陽子の心のバランスが少しずつ崩れ始めた。
昼休み、ふと待合室の女性誌をめくると女性向けの出会い系アプリの広告を見つけた。
いつもなら無視するはずの広告が今日はなぜだか気になった。
陽子はスマホを取り出すとそのアプリをダウンロードした。
名前を『陽子』と入力し、エリアを自分が住む市の隣の市を選んだ。
すると数百件の男からのコメントが閲覧できた。
何人かのコメントを読む。
その中に『最近、妻との心のすれ違いを感じます。同じような気持ちの女性はいませんか?お話ししましょう』
このコメントに何か心をひかれ『その気持ち、私も分かります。昔はこんなこと感じたことなかったのに』と打ち込んだ。
その直後、『コメントありがとうございます。良かったら直接メールしませんか?』というコメントと共にメールアドレスが記されていた。
【これって・・・私も出会い系使っちゃうって事よね・・でもいざとなったら無視すればいいか】と軽い気持ちで直接メールを送った。
『はじめまして。陽子と言います。私もその気持ち、すごくよく分かります。なんかむなしいというか悲しいというか・・・淋しくなりますよね』
すぐさま返信があった。
『はじめまして。メールありがとうございます。この気持ち、共感してもらえますか?自分は今月からこの町で単身赴任中なので特にそう思うのかも知れません。きっと陽子さんは素敵な女性なんでしょうね、人の気持ちが分かると言うか、共感力があるって熟成したし女性なのかなと思います。そんな素敵な女性、是非お会いしてみたい。気に入らなかったら遠目で見てそのまま帰って貰っても構いません。今夜7時、○○駅で会えませんか?っていうか単身赴任で晩御飯、一人で食べるのも淋しいので一緒に食べて貰えませんか?もちろんごちそうします』
いきなりの誘いと展開の速さに驚く陽子。
返信をタップすると本文を打ち込む。
【いきなりの会いたいって・・・さすが出会い系よね。でも食事ごちそうしてくれるって言うし嫌なら声をかけないで帰ればいいって言うから・・・】
『分かりました。その駅なら私も分かりますのでその時間に』
入力を終え、すぐさま送信をタップする。
送信を終えた後、体が汗ばんでいる事に気付いた。
午後の診察も終え、「それじゃ先生、明日もおかず、用意してきますね」
「すまないね、せっかくの休診日なのに。それより・・・今日こそデートかい?随分古午後は楽しそうだったけど。まさかご主人以外とか?」
笑いながら言う先生に「違いますよ、ひさしぶりに友達と食事に行くんですよ。それじゃお疲れ様でした」と答え、駅に向かうバスに飛び乗った。
診療所の最寄り駅から待ち合わせの駅までは20分ほどかかる。
陽子は前もって駅ビルのトイレで化粧を直した。
【最近、先生のちょっとエッチな視線を感じるようになって、昨日は下着メーカーの人とあんなことになって、今日は出会い系で知り合った人と食事か・・・ずいぶん今までと変わってきたわ】
鏡の中の自分を見てそんな考えが浮かんだ。
【だって一回きりの人生なんだから・・・楽しまなきゃ、よねっ】
そう自分に言い聞かせた。
約束の駅に向かう電車の中で陽子は色々と考えていた。
【ホントにダメなタイプだったら声をかけないで帰ってこよう。そうしたらアドレスは受信拒否にすればいいか、それとも急用が入ったとか言えばいいか。まあまあだったら食事位はいいかな。和食かイタリアンかな?さすがにいい男は来ないわよね】
そのうち約束の駅に到着した。
改札から出る人の波に流されながら約束の場所を通りすぎた。
少し離れた所からメールを送った。
『近くまで来てますけどどの辺りに居ますか?どんな格好ですか?』
【こっちの情報を一切出さなければそのまま帰っても大丈夫だもの】
すぐさま返信があった。
『改札前の時計の下に居ます。黒いコートと黒い鞄です』
居た・・・
背の高い、陽子より10歳ほど年上か、少し疲れた感じの男だった。
【う~ん、思ったほど悪くはないかな?】
陽子は男に向かって真横から歩いて行った。
少し後ろに回り込み「こんばんは。陽子です。はじめまして」と声をかけた。
「えっ、あっ、陽子さんですか?はじめまして」
男の慌てぶりが陽子には可愛らしく見えた。
「いや、その、想像してた感じより全然美しいので・・・あの・・・はじめまして」
二度目のはじめましてに思わず陽子は笑ってしまった。
「はい、はじめまして」
陽子の言葉に男も笑った。
「あのう・・・すごく綺麗です」
もじもじしながら言う男。
「はい、すごく綺麗ですか、ありがとうございます」
陽子の冗談に男の笑顔からぎこちなさが消えていく。
男は陽子の体を上から下までサラッと流し見た。
髪は下ろしていてノースリーブの白いニットのワンピースにパンプス。
ニットのワンピースは陽子のスタイルの良さを一層引き立てていた。
「じゃあ歩きますか」
「はい」
右側を歩く男の左手を陽子の右手が軽く握る。
【家から離れてるし知ってる人なんていないわよね。それに・・・せっかくだから楽しまなきゃ】
驚き振り替える男。
「えっ?いいんですか?」
「だって今日はデートみたいなものじゃないですか」
「そっ、そうですね」
「そっ、そうですよ!」
ふざけて笑う陽子。
笑うたび、陽子の大きな胸が男の腕に当たる。
男も笑いながら左腕を少し曲げ、陽子の胸との接触を増やす。
いつの間にか繋いでいた手は腕同士まで重なりあい男の腕に胸が押し付けられるようになっていた。
「コート、暑くないですか?」
男の顔を覗きこむ陽子に男が答える。
「すっごく暑いです。脱いでもいいですか?」
「どうぞどうぞ、なんなら上着も」
「そうですね、じゃあちょっと脱いじゃいますね」
通路の端に寄りコートとスーツの上着を脱いだ。
「じゃあ行きましょうか」
再び手を繋ぐ二人。
薄着になった男の腕に容赦なく陽子の胸が押し付けられる。
男の歩き方が少しぎこちなくなる。
【あれ・・・もしかしてこの人・・・】
「あのぅ・・・今日はお仕事忙しかったんですか?随分お疲れ見たいですけど」
気遣うふりをして声をかける。
「えぇ、仕事が忙しいのと単身赴任がなかなか大変で・・・」
「そうなんですか、じゃあお食事の前に少し涼みましょ。そこの階段を下りると下に公園があるので」
「そうなんですか、よく知ってますね。じゃあそうしましょうか」
階段に向かう間、陽子は更に胸を腕に押し付けた。
階段を下りる時もピッタリと離れず腕に胸を押し付け続ける。
階段を下りた時には男の股間は大きく膨らんでいた。
「じゃああのベンチで」
そう言うと陽子は男の手を引っ張って公園で一番暗い所にあるベンチに向かった。
男はぎこちなく腕を引かれて付いてくる。
「さっ、少し休憩しましょ」
いたずらっぽく笑う陽子。
【なんだろう・・・知らない人だと大胆になれる。もともと私ってこういう女だったのかな?いつもの自分と全然違うけど今までに味わったこと無いドキドキ。楽しい・・・】
「あの・・・陽子さんはあのアプリ、よく利用するんですか?」
「いえ、今日が初めてなんです」
「えっ?ホントですか?いや、何て言うか・・・」
「何て言うか?何?」
男の顔を覗きこむ陽子。
大きくあいた胸元、胸の谷間を覗き込みながら男が答える。
「なれてるって言うか大胆って言うか・・・」
「えっ?男の人ってこういうの好きなんじゃないですか?」
周りに人が居ないか見まわすと陽子は男に密着し男の肩に頭を預けた。
「いや、好きです。特に陽子さんみたいな美人にされたらたまらないです」
「ちゃんとこっちを向いて言って」
「はい」
「陽子さんは美人だからんぐぐぐ・・・」
陽子の唇が男の口を塞いだ。
陽子は男の手を探り当てると自分の胸にあてがった。
男の口に陽子の舌が入る。
ヌルリと男の舌と舌を絡ませる。
そして陽子は男の唾液をゴクリと音をたてて飲み込んだ。
【あなたがいけないのよ。あなたが仕事に打ち込んで私を放っておくから。私だってまだ女なのよ。あなたが私に興味が無くなっても私に興味を持つ男なんてたくさんいるんだから!】
男の舌、歯茎、歯の裏、口の中のあらゆる所を舐め回す陽子。
呼吸も忘れて男の舌を吸い続ける。
男の舌を自分の口に吸い込み、やさしく舐め回す。
男が積極的に陽子の胸を揉み始めた。
陽子は男の手を離すと今度は男の股間に手を伸ばした。
【大きさは・・・夫と同じ位かしら、でもすごく硬い。それにビクンビクンしてる】
陽子は男から口を離し、耳元で囁いた。
「ズボンきつくない?」
「きついよ。すごく。それに・・・」
陽子は立ち上がると公園の一角にある四角い小さな建物に男の手を引いて向かった。
公衆トイレ
陽子は周りを見まわすとサッと男の手を引き、女性トイレに消えていった。
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