診療所を後にし、バス停にたどり着く。
「しばらく来ないか・・・たまには歩くかな」
なんとなく火照った体を夜風で冷ましたい気もして駅まで歩くことにした。
しばらく歩くと駅ビルの賑やかな光が見えてきた。
陽子は駅には向かわずショッピングビルに足を向けた。
何を見るでもなくブラブラと専門店街を歩く。
心なしかすれ違う男たちが陽子に向けられている気がした。
【ちょっと品が無かったかしら、男の人の目が気になるわ・・・】
ふと気が付くと下着の店の前に立っていた。
店の入り口には『春物セール 新作入荷』と書かれている。
【ちょっと覗いてみようかな?】
あれこれ下着を見て歩く。
可愛い下着を見つけてもEカップまでというものもありなかなか気に入った物が見つからなかった。
「あのう・・・もしよかったらアンケートに答えて頂けませんか?」
振り返ると20代半ばの男の子がバインダーを持って立っていた。
「えっ?アンケートって?どんな・・・」
「いえ、怪しい者ではありません、下着メーカーの者で足立といいます」
男はスーツの内ポケットから慌てて名刺を出した。
○Ⅹ商事 商品開発部 足立友也
受け取った名刺にそう書いてあった。
「今後の商品開発の為にユーザーから直接意見を頂こうということでお声を掛けさせて頂きました。もし良かったらなんですけど・・・」
まだあどけなさが残る顔が耳まで赤くなっている。
「えぇ、そういうことでしたら少しなら構いませんが・・・ただもう少しお店を見たいんですけど」
「はい、それは構いません。ごゆっくりどうぞ。私は店の外で待っていますので」
足立は安堵の表情を浮かべ微笑んだ。
「じゃあなるべく急ぎますので少し待っててくださる?」
「はい、店を出てちょっと右に行った所で待ってます。店の目の前に立ってるのもアレなので」
かわいらしい笑い顔で店から出ていった。
【さて、どんなのにしようかしら】
一通り見て薄紫の物とピンクの物を選んだ。
レジで支払いを済ますとすでに30分ほど経っていた。
【いけない、かなり待たせちゃったかな】
店を出て右手に曲がると少し先に足立が不安そうに立っていた。
「良かった~すっぽかされたかと思いましたよ。下着の店なので何度も覗きに行くわけにいかないし」
安心したような表情で陽子を見つめる足立。
「すみません、知らないうちにこんなに時間が経っちゃって。ホントご免なさい」
「いえいえ、いいんです。うちの商品もお買い上げ頂いておまけにアンケートまでご協力頂けるんですから」続けて足立は「アンケートに答えて頂くのに立ったままって訳にもいかないのでコーヒーショップでもいかがですか?」
「えぇ、私は構いません。それじゃ行きましょうか」
コーヒーを受け取り向かい合って席に着いた。
「じゃあいくつか質問させていただきますね。答えたくない物がありましたらそれは構いませんので」
「はい、わかりました」
陽子はコーヒーを一口すすった。
【そういえばこんな若い子と話をするなんて仕事以外でどれぐらい前だったかしら・・・】
「あの・・・いきなりで申し訳ないのですが・・・カップとスリーサイズと身長を教えて頂けませんでしょうか・・・」
「えっ?あっはい。Fの73‐61‐90で163センチです」
足立の視線が陽子の胸の辺りを泳ぐ。
慌ててバインダーに目を落とすと数字を書き込んだ。
「すごくバランスの取れたスタイルですね。指輪をされてるから奥様ですよね?お子様はいらっしゃいますか?」
足立の視線が陽子の顔と胸を忙しく往復する。
「子供はいないんです」
足立に向けられていた陽子に視線がコーヒーに向けられた。
「あっそうでしたか、すみません。でもだから素晴らしいスタイルを維持されてるんですね。それでは下着の購入の頻度や選ぶ基準、好みの色など教えて頂けますか?」
そんな質問がしばらく続き、続いて足立からの質問が「今日の下着もうちの商品でしょうか?」
「えーっと、どうだったかしら・・・そちらの下着、けっこう使ってますのでたぶんそうだとおもうんですが」
「そうですか、長々とありがとうございました。それとアンケートの謝礼に当社の商品券がありますので受け取って下さい。私も今日はこれで社に引き上げるので今日配る分の商品券、すべてお持ち下さい。あと商品の事でお気づきになられましたら直接連絡頂けるようにアドレスも一緒に入れてありますので」
そういうと鞄から封筒をテーブルの上に置くと陽子の手元まで進めた。
「えっ、いいんですか?それじゃ遠慮なくいただきます」
封筒を受け取る陽子に足立が言った。
「お時間取らせちゃったのでもしよろしければ車でお送りしましょうか?これから自分、会社に戻りますので」
「えっ、いいんですか?それだと助かるんですけど・・・ここから駅5コ位ありますよ」
「いえ、どうぞ乗っていって下さい。社用車ですけど」
「それじゃお言葉に甘えて。お願いします」
二人はコーヒーショップを出てショッピングビルの駐車場に向かった。
車に乗り込むとシートベルトを締め、駐車場から大通りに出た。
「なんかこんな美人を隣に乗せてるのに社用車ってところが色気ないですよね」
前を向いたまま足立が笑って言った。
「まぁ、美人だなんて、お上手ですね」
「いや、正直言って凄く美人です。だからお店で中井さんに声をかけたんですよ。やっぱりこういう話をするなら綺麗な人のほうがいいじゃないですか」
「ホントにそう思ってます?」
前を向いたままの足立の顔を陽子は覗きこんだ。
「ホントですホントです。こんなとこで嘘言ってもしょうがないじゃないですか」
視線をチラリと陽子に向けると前屈みのブラウスの胸元からブラジャーと谷間が見えた。
「そうか、私って美人だったんだ」
陽子は思わす吹き出して言った。
「え~~いまさらですか?凄く美人ですよ。実感無いんですか!」
打ち解けた雰囲気て足立が答えた。
「ん~あんまり自分を美人だと思ったことはないな~」
「何言ってんですか!ご主人とか凄くうらやましいですよ。家に帰ったらこんな綺麗な奥さんが待っててくれるなんて」
「そっか、なんか嬉しくなってきたな。っていうか自信がついてきた。あっ、その辺りでいいです。もう近いので」
家の前まで送ってもらうのも無用心なので少し離れた所で車を止めてもらった。
街灯もなく薄暗い路地で陽子は「今日の下着はこんな感じです」とブラウスのボタンを2つ外した。
「あっ・・・」足立の顔が硬直した。
「送ってもらってほめてもらって自分に自信つけてもらっちゃったから」陽子はブラウスの左側を広げブラジャーを露にした。
「暗くてよく見えないな・・・うちのは刺繍に特徴があるから触れば分かるかも・・・」
胸にゆっくり手を伸ばす足立。
視線をそらし、外を向く陽子。
ブラウスとブラジャーの間に足立の手が滑り込む。
「あっ・・・」声ともため息ともつかない音が陽子の口から漏れる。
足立はブラジャーの感触を確かめるように右手に神経を集中させた。
薄暗い道路に微かに動く人影が見えた。
「あっ、誰か来る!」
急いで陽子はブラウスのボタンを留めると正気を取り戻したように荷物をまとめた。
「今日はありがとうございました」
慌てて車を降りると少し離れた所で立ち止まり、振り返って小さく手を振った。
足立の車が見えなくなる所まで歩くと溜め息が漏れた。
あそこで人が来なければどうなっていただろうかという期待と初めて会った男に胸を触らせた後悔とが混ざり合った溜め息だった。
【いけない、私は結婚してるの】そう陽子の理性は欲望と冒険心を支配した。
しかし体の奥底では熱い何かが目を覚ましつつあった。
家の玄関を入る頃には陽子の体の奥から欲望の滴が染み出していた。
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