チーン。
オーブンか何かの音がした。
一夜干しが焼けたのだろう。
ナ「ゴメン。熱いうちに割いて、冷めると割けないのよ。」
俺「いいよ。ゴメン、灰皿ないかな?」
ナ「あら、ゴメンね。ウチ やめちゃったから」
食器棚の下の方を探している。
ナ「来客用のが有ったんだけど。」
「ゴメン。こんなんで良い?」
と、少し深めの皿を出してくれた。
タバコをくわえ、イかを割きながら聞いた。
俺「ここは何所帯あるの?」
ナ「んー?、12軒かな?、6軒づつ。」
俺「マンション、陽があたんないでしょ?」
ナ「そう!。モメたのよ!、日照権だか何だか。しばらく やってたわ。」
「(左)隣、ケイコさんのご主人と」
「ケイコさん、知ってるでしょ?」
俺が キョトン としていると、
ナ「ほら、ヒデ君だっけ?。彼の…」
そう言いかけた時、チャイムがなった。
宅配寿司が届いたらしい。
3人前か4人前はありそうな桶を2つ、テーブルの上に置いた。
俺「そんなに?」
ナ「大丈夫よ、上は お刺身だから、ほら。」
と、桶を傾けて 俺に見せた。
ナ「…これ。要る?」
と、即席の お吸い物の袋をみせた。
俺「あ、ビールがあるから。」
ナ「そう。こんだけ有れば、雑炊とか 出来るわね。
明日の朝は それに しようか?」
ナミさんは、話しながら、箸 小皿 醤油 などを準備している。
それらをテーブルに置き、小皿に醤油を注ぎながら
ナ「そ、彼のご両親と良く話し してるでしょう?」
「貴男が目押し してあげてるのも 何度も見たわ、彼女がケイコさん。お隣の。」
俺「えーッ、ケーコ ババア?」
ナ「なに?、そんな風によばれてんの?」
「可愛そう、綺麗なのに。」
「あれで、私の3つ上よ。」
「で?、私は、何て呼ばれてんのかな?」
そう俺に聞きながら椅子に座った。
が、返事を待たずに つづけた。
ナ「でね、結構 いるのよ、ここ。」
「ケイコさんでしょ、田村さんとこの京子さんでしょ。」
「向かいの京子さんは、見れば分かると思う」
「で、田村さんの並びの 一番奥と、その手前」
「皆 同世代。50前後の。一番奥が一番若いのかな?」
「ケイコさんとことは、仲 悪いけど」
「あっ、ゴメンね。食べよ。」
で、食べながらの会話が続いた。
長くなりそう なので要約すると。
一番奥の奥さんが、私道に鉢植えやプランターを並べだして、奥だし 駐車場も他に借りてるからって、何しても良いって事じゃないっ、ってケイコさんの ご主人が クレームを付けて以来だと言う。
ナミさん夫婦は富山出身。
裁縫好きの母の影響で服飾の専門学校をでた。
ご主人は中学の先輩、1年の時の3年生、兼業農家で農業高校をでた。
成人して、地元の青年団だか何だかで再開して 付き合いだした。
雪深く、冬期の仕事探しもままならず、農業高校時代に取得した資格をあてにして、2人で大阪にでた。
大阪時代に入籍。
でも、大阪でも パッとせず、親戚の居るこの地に上京してきた。
子供が欲しかったが、なかなか出来ない。
20代後半に、不妊治療を真剣に考えた。
あちら こちらと、情報を求め 尋ね歩く日々が続いた。
そんな時、生理が止まった、4ヶ月程。
まずは 1人で産婦人科をたずねた。
先生いわく、妊娠はしていない、むしろ検査が必要。
ご主人には、
妊娠していない、もともと不順だし、子供 子供!、がかえってストレスになってる。
望むなら検査をしてみますか?
ただ、それよりも、リラックスして、楽しむ 位の気持ちで臨んだらどうだろう?
みたいな事を言われた、と伝えたそうだ。
ご主人と話し合い、念のためと検査を受けた。
その時の先生の言葉が
「腹の中が腐ってる、子供は望めない!」
と、ナミさんには聞こえた そうだ。
が、どうしても、ご主人に報告する事が出来ない。
異常なし、気長に 楽な気持ちで 授かり物だから。
と言われた。と伝えたそうだ。
どうしても、本当の事が言えない 後ろめたさ から、
ご主人に 喜んでもらおう と、努力してきたのだそうだ。
以来、避妊などは した事がない。
「…(子供が)出来るわけ ないもの…」
と、少し淋しそうに言っていた。
ナ 「…お風呂、冷めちゃったかしら?」
「追い焚きするね」
と、席をたった。
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