言われたレストランに入り、ジュースを飲みたいところだが、好きでもないホットコーヒーを注文した。店内に音楽が流れ、2階3階のシャッターが降りていく。
片付けをしているであろう彼女を思い、コーヒーを飲む。時間が進むにつれ、焦りが出てくる。外を見ながら、もう帰りたい気分にもなった。
携帯で時間を確認する。「9時45分」、後15分くらいで現れそうだ。そして思う。「腕時計で時間を確認した方がカッコいいかなぁ?」。
その時だった。外を見ると、紺のワンピースに白いバッグを持った女性が足早に現れる。その女性は、そのままこの店に飛び込んできた。
誰かを探すように、女性は辺りを見回した。僕を見つけると、小さく手を上げて近寄って来た。「早かった?」と言い、自分でも急いだのだろう。
「私もコーヒー。」と店員に告げ、そのまま僕と話をしようとする。店員の彼女しか知らない僕は、私服の彼女を見て、一気に緊張してしまいます。
私服の彼女は若くて、細くて、普通に綺麗な女性でした。もう、店員とお客ではない。恐怖症が顔を出して来ます。
もう、気づかれないように必死です。会話が途切れないように、話がスベりませんように、笑ってくれますように、退屈しませんように。
「中野さんって、おいくつですか?」、一番気になっていたことだ。「いくつに見えます?」、やはりそう来たか。「31くらい?」とマジに正解を狙った。
「もっと上。39です。来年、四十路。」、まさかだった。とても、40歳前には見えない。
「23くらい?」と逆に聞かれて、「21です。」と答えた。「そう。ほんとは10代じゃないかと思ってました。」と答えてくれた。
やはり話が続かなくなり、「お綺麗ですよねぇ?」と起死回生を狙う。「ほんと?うれしいわぁ。」と喜んでもらえたが、もう手が無くなりつつあった。
この頃になると、もう惨敗してるんじゃないかと不安にもなってくる。ただ、いい経験をしているとも思う。これまでなかったことだから。
記念に、彼女の写真が欲しくなった。携帯も考えたが、「一緒にプリクラ撮りません?」と誘ってみた。「撮る~?」となんとか乗ってきた。
スーパーのゲーセンに向かった。僕だって、プリクラなどやったことがない。色んな機種があって、サッパリわからん。
とりあえず、一番手前の機械に飛び込んだ。予想以上に中は明るい。色んな機能があって、これまたサッパリわからん。
そんな時、彼女がいろいろと設定をしてくれ、「これがいい?どっちがいい?」とちゃんとやってくれました。
そして、いよいよ撮影。彼女はキス顔をしてポーズを決める。馴れてるじゃん。僕はといえば、真顔で証明写真である。
瞬間、彼女が僕に抱きついてきた。ここで撮影。馴れてるじゃん。僕も、馴れてもないのに肩など抱き、雰囲気を壊さないように必死。
そして最後に彼女はそのとがらせたキス顔の唇を、僕の頬スレスレまで寄せて、撮影。終わると抱き合ったまま、笑っています。
「ちょっと触れちゃった?」、やはり分かっていました。頬に、彼女の唇が少し触れていたのです。惚れてまうわ。
そして、この日はお別れ。帰る車の中で、やはり彼女ことばかり考えていました。ただ、僕には無理。きっと、あの人は男馴れしてるから。情けない自分です。
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