後日談〈私〉2
私は、スマホを持って浴室へ入った。
早速彼からのメッセージを確認する。
(無事に帰り着いた?……)
そんな言葉から始まり、お礼と感想が一緒に述べられていた。お礼を言うのは、どちらかと言えば、私の方だ。
しかし、彼の方が、私と一緒にいた短くも濃密な時間に、とても感謝していた。
そして、遅くなった事への謝罪も。
いやいや、それは私も同意の上で……。
二人の濃密な時間を象徴するような、長い文章をスクロールすると、一緒に写真が3枚添付されてある。1枚目は、駅で二人で寄り添った写真……彼のスマホでの自撮り写真。
2枚目は、部屋でキスをしている自撮り。そして、3枚目は……。
私の記憶は呼び起こされ、身体全体が火照るのがわかる……。
「……はああぁぁ……」
何もしていないのに、吐息が溢れる。
(……んんっ……濡れてる……)
私はこんな表情で……。画像を見て、あの時間を思い出しただけで、愛液が溢れ出してくる……。気付けば、乳首とクリトリスを触ろうとしていた。
「もう洗濯するものはないよね」
夫の声にドキッとする。現実に意識を戻す。「うん……もうない、それだけ」
夫に伝え、急いでシャワーを浴びる。
火照った身体に、熱いお湯を掛ける……とても暑い。けれど、水を浴びるよりお湯の方が、今は良い。
髪を洗いながら、数時間前を思い出す。シャワーを浴びるのは、今日、これで3度目だ。1度目は、朝。起きて直ぐ。3度目が今。では、2度目はいつ……。
……夕方……帰りの新幹線に乗る前……ラブホテルで……。
ホテルに忘れ物……それは、私がしたのだ。職場の人ではない。念の為に持って来ておいた、通帳や保険証を入れた、小さなカバンを忘れた事に、ホテルのフロントからの電話で気付いた。
しかも、もう1つ忘れ物があると言う。私の物ではなく……誰のかはわかった……彼のだ。
2日目の旅行のスケジュールは、過密日程だった。仮に忘れ物を取りにホテルに向かうと、公共交通機関を使おうがタクシーを使おうが、かなりの時間のロスになる。私のせいで、他のみんなに迷惑を掛けられない。
私は、忘れ物の事情を皆に話し、私1人でホテルに戻り、忘れ物を取って来るので、皆さんは残りの行程を済ませ、先に帰っていて下さいと、願い出た。
恐らくスムーズに戻って来れても、帰る予定の新幹線には間に合わない。だから、後の新幹線に乗って帰ります。
他のみんなは、私の方向音痴を心配して、一緒に行くと言ってれたけれど、私の力強い「大丈夫」の声に負け、諦めて、了承してくれ、その場で別れた。
私が方向音痴のくせに、大丈夫だと言い切ったのには、理由がある。
……彼の存在だ。
もちろん、彼の忘れ物もあるのだから、渡さなければならない。その後で、彼に道順を聞けば、必ず駅に戻れると思ったのだ。
すぐに彼と連絡を取る。返事は直ぐに来た。
「大丈夫、俺に任せとき」
その言葉に、凄く安心した。
ホテルで待ち合わせをしようと、私は言ったのだが、彼が自分の車で、私を拾いホテルまで連れていくと、言ってくれた。その方が確実で早いと。
私は、彼のその提案に、甘えることにした。
彼は30分足らずで、私の元へと到着し、直ぐにホテルに向かってくれ、無事に忘れ物を回収できた。
「本当にありがとう」
「いやいや、俺の忘れ物もあったんやし、気にしいな」
「いや、でも、本当にマサ君のお陰で助かった」
結果的に、帰りの予定の新幹線にはギリギリ間に合いそうだった。けれど、このまま、みんなの元へ戻ると、間に合った説明が面倒になりそうだし……。
恩人に御礼しないと気が済まないと思い………私は、昼食をご馳走する事にした。
※元投稿はこちら >>