後日談〈私〉1
「ただいま」
「おかえりぃ~」
リビングへの戸を開けるや否や、子供達が抱き着いて来た。
安堵と嬉しさが、声に宿っているのがわかる。
「おかえり」
少し遅れて、夫の落ち着いた声がした。
こちらは、安堵と……そして、疲れの混ざった声だ。
私の旅行中、夫は子供の相手と家事で疲れたのだろうか。
目の下にも隈ができている。
「………」
「ん……どうしたん」
「……ただいま」
私は、夫に申し訳無いと思った。
後ろめたさが、決して表情に出ないように、慎重に……だから、返事に時間が掛かった。
久しぶりの再会……だいぶ大袈裟だが、……たったの一泊二日の旅行の期間、会ってなかっただけなのに、子供達にとっては寂しかったのだろう、私から離れようとしない。
そんな姿を見かねて、夫が私の荷物をリビングへ運んでくれた。私は子供達と抱き合ったまま、ゆっくりとリビングへ入る。
「やっぱ結構、遅くなったね」
「……ごめん……」
昼過ぎに、帰りが予定より遅くなると、夫にはLINEをしていた。職場の人がホテルに忘れ物をして、取りに戻る為、遅くなると……。
「別に、志保ちゃんのせいじゃないし……まあ、しょうがないよ」
「……」
残った家事をこなす夫の後ろ姿を見て、また私は、後ろめたさを感じずにはいられなかった。
「家事……私がする……」
「いや、いいバイ……疲れちょうやろぉ……洗濯物も出しぃ……洗うき……」
夫がキャリーバッグを開けようとする。と同時に子供達が、「お土産、お土産」と言って、先にバッグを開ける。
子供達の過度な期待とは裏腹に、お土産は買う時間がほとんど無く、お菓子しか買えてなかった。え~っとブーイングさながらに、露骨につまらなそうな顔をする子供達。
もう23時を回っており、すでに子供達は寝る時間だが、それでもお菓子が食べたいらしく、食べて良いか必死に尋ねてくる。「じゃあ、1個ずつだけ。それ食べたら寝なさい」……夫が言うと、子供達は素直に返事をし、嬉しそうに食べ出した。
夫が、私が旅行中に出した汚れ物を洗濯しようと、メッシュの袋から出そうとした瞬間、私は咄嗟にその袋ごと、夫の手から剥ぎ取る。
「せ……洗濯はいい……私がするけん……」
「……そうなん、わかった」
夫は驚きつつも、素直に従ってくれた。……危なかった。下着の汚れは、たぶん尋常じゃないし、夫に見付かると、非常にマズイ事になる。
私は急いで立ちあがり、洗面所へ向かおうとした時だった。
小気味良い、LINEのメッセージ着信音が鳴った。
パンツのポケットからスマホを出し、画面を覗く。
……彼からのメッセージだ。
(うわっ……)
一瞬心臓がドクンと跳び跳ねる。その後で、3度4度と連続で着信音が鳴る。その度に私の心臓もホップ、ステップ、ジャンプと云わんばかりに、跳ねる。
私は、アプリを起動させずに、そして、夫に悟られないよう、平常心を何とか保ち、「お風呂に入ってくる」と夫に告げ、浴室に向かった。
「お風呂でゆっくり疲れを取ってきぃね」
夫の優しい言葉に、私は後ろめたさがもっと膨らんでいったが、すぐに、彼からのメッセージが気になり、そして、鼓動が速くなる。
夫は、お菓子を食べ終わった子供達に、寝る準備をさせようと促すと、自分のスマホにもLINEの着信が来てるのに気付き、画面を覗くのが見えた。
その隙に、私は急いで下着をメッシュの袋から出し、洗濯機に入れた。良かった。案の定、着替えた下着を見ると、かなりの……染みが残っていた。今、履いている下着もたぶん……いや、確実に汚れている。
下着を脱ぎ、そして、確認は敢えてせず、洗濯機の中へ放り込み、洗剤を入れ始動させた。
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