(7日目ラスト)
私は、車に子供達の荷物を乗せ、近所へのお土産も乗せた。
子供達は思い思いに「ばいばーい!また来るねー!」と祖父母や従兄弟達に別れの挨拶をしていた。
家の外に見送りに来た母が
「Yちゃんによろしく言っといてね。年末は待ってるからね、って。」
私は母に
「あぁ。伝えとくよ。」
と言った後、子供達に車に乗るように言った。
末っ子のチャイルドシートを締めて、スライドドアを閉じる。
運転席に乗り込み、運転席のウインドウを開き、両親に別れの挨拶を済ませ、車を発進させた。
車を発進させてすぐに子供達は、カーモニターに映し出されたアニメのDVDに夢中になっていた。
時刻を確認すると午後3時10分だった。
今から帰ると道が多少混んでるだろうから、家に着くのは6時近くかな。
ナビのモニターにも、自宅到着予定時刻は5:48と表示されていた。
今朝は大和さんに私はメールを入れた。
「今日は最終日ですね。最後まで妻をよろしくお願いします。」
と送信したが、大和さんからの返信はなかった。
そして、妻からもLINEが送られてこないことに、私は一抹の不安が生じていた。
実家に一番近いインターチェンジから高速に乗った時には、子供達は毎日のようにはしゃいでいた疲れからか、グッスリと眠りについていた。
私はナビをDVDモードからミュージックモードに切り替える。
妻はちょくちょくCDをレンタルしては、カーナビに録音をさせていたので、かかる音楽は妻が好きな曲ばかりだ。
考えることは、妻と大和さんのことばかりだ。
今頃二人はどうしてるんだろうか。
登山旅行を密かにつけて以来、大和さんからメールは来ても通話をすることがなかったのが、若干の不安要素でもあった。
もちろん、妻がもしかしたら帰ってこなくなるリスクがあることは覚悟しなくてはならないことなんだ、と自分に言い聞かせるものの、それでも不安というのは絶対に拭えない。
妻を愛するが故に、妻の女を知りたい、しかし、妻が別の男の女になってしまうリスクがある。
今更ながら後悔したところで遅い。
自分が望んでそうしたことなのだ。
私は最低な男だ。
自分の欲望のために家族を犠牲にしたのだ。
そう思えば思う程、後悔が押し寄せてくる。
『妻を信じている。大和さんのことも信じている。』
そう何度も心で繰り返し言いながら、私はハンドルを握り続けた。
午後5時34分
予想したよりも渋滞を早く抜けれたため、ナビの予定時刻よりも早く家に着いた。
カナカナカナカナカナカナ
自宅近くの林からひぐらしの鳴く音が聞こえた。
妻の軽自動車はまだ帰っていなかった。
子供達を起こしすと、長男と次男は目をこすりながらも、開いたスライドドアから飛び降りるようにして車から降車した。
私は三男のチャイルドシートを外し車から降ろした。
「ママまだ帰ってきてないんだね。」
次男が私にそう聞いてきた。
私は
「まだお仕事中なんだろうな。」
とつっけんどんに答えたが、内心では緊張をおし隠していた。
荷物を軒先に降ろしてから、家の鍵を開ける。
玄関に入ると、いつもの日常生活の景色が広がった。
子供達は早速リビングで遊ぼうとしたので、私は
「とりあえず自分の荷物を片付けろ!」
と声を張り上げた。
車からお土産を降ろし、軒先の荷物を玄関に置いて、リビングに入った。
リビングにある食卓の妻の席には、A3サイズの用紙が置かれており、私はその置かれた用紙を手に取り目を落とす。
時間がたつのが遅く感じる。
子供達が二階で騒ぐ足音がバタバタバタバタとかけ降りてくる音が聞こえる。
私は全身の力が抜け、手にした紙が床に滑り落ちていってしまった。
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