(7日目後半⑦)
ホテルをチェックアウトしたのは午後4時40分だった。
私は大和さんの車の助手席に乗り、大和さんは車を事務所へと向かわせていた。
FMラジオは、お盆明けで明日からまたいつもの日常生活が始まることを話題にDJがリスナーからのメールを紹介している。
『明日からまたいつもの仕事が始まる。そう思うだけで、今日は1日やる気が湧きません。あー。重度のサザエさん症候群なのかなぁ、どこかに現実逃避出来る場所があるなら教えて下さい!』
そんなメールを読んだ後に、DJは現実逃避の方法を紹介している。
それを聞きながら、大和さんは
「あー。確かに、明日からは、またいつも通りの日常に戻っちゃうんだなぁ。何だか寂しいな。」
と言った。
私は外を眺めながら
「そうだね。」
と呟く。
午後5時10分、車が事務所に着いた。
「さて!着いた!」
大和さんの元気な声が車内に響く。
私は相変わらず、車外をぼんやりと眺めていた。
「1週間、あっという間だったなぁ。なぁ、Y、これでおしまいじゃないよね?」
大和さんは私にそう聞いてきた。
私は大和さんの問いかけに無言のまま、ただ車外を眺めている。
「どうした?Y?」
大和さんは不思議そうにそう聞いてきたが、私が無言のままでいると、それ以上は何も話さなかった。
きっと私の答えを待ってくれているんだろう。
沈黙の時間が長く続く。
ラジオが時刻が午後5時半になったことを伝える。
カナカナカナカナカナカナ
ひぐらしの鳴く音が聞こえた。
「ねえ。大和さん。」
私は車外を見つめたまま、意を決して口を開く。
「ん?」
「この前聞いたこと。覚えてる?」
「えーと。ごめん。いきなり聞かれて思い出せない。なんだっけ?」
「こんな女にした責任取ってって。」
「あ。その質問か。もちろん覚えてるよ。」
「責任取ってくれる?」
「んー。どんな形の責任なんだろう?」
「言葉のとおりだよ。」
「そうだなぁ。俺最初に言ったとおり、遊び半分の気持ちではないことだけは事実だよ。だから、責任の取り方は色々あるかもしれないけど、出来る限りのことはするつもりだよ。」
「そっか。じゃあ……」
私は大和さんの方に向き直り、大和さんの唇に自分の唇を合わせた。
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