ドンドン!
呼び鈴を鳴らしても反応がないので、ドアを叩いてみる。普通、1日予備校を休んだくらいで家庭訪問をすることはないけれど、タクマのこの数日の態度と、木島と須田が言っていたことが気になる。
親元離れての予備校生活なので、ひとたび生活が乱れてしまうと元に戻すのが難しい。受験シーズンまで2ヶ月を切った今、タクマに自暴自棄になられては困る。
もう一度、ドアを叩こうとすると、ガチャリと内側からドアが開けられる。
「西崎チューター......。何しに来たの?」
今まで寝てましたと言わんばかりの表情。
「何しに来たとは、ご挨拶ね。予備校、無断欠席で心配だったからに決まってるでしょう?電話にも出ないし。」
黙って奥に引っ込もうとするタクマの腕を掴むと、自然とドアの内側に身体を入れることになる。
「タクマ君!」
「玄関で騒がないでくれよ。外に声が漏れる。」
慌てて靴を脱ぎ、タクマに続く。
6畳ほどの空間に、机とベッド、本棚以外に目につくものは何もないシンプルな部屋。
タクマはバタンとベッドにうつ伏せに寝転がり、私の方を見ようともしない。
「何を怒っているの?タクマ君の言う通りにしたのに。」
「チューター。。。玲子さんさぁ。あの写真、ガチでエッチしたんでしょう?」
「......。」
「すげぇ興奮はしたけど、何つーか、相手、俺じゃないし......。」
「タクマ君。でも、もともとはタクマ君に頑張ってほしくて書いた話だし。。。」
「......。」
「ハァ。もう分かんなくなっちゃったよ。じゃあ、どうすればいいの?」
「俺も......、玲子さんと、したい。」
「小説の中じゃなくて、リアルに貴女とセックスしたい。分かってるくせに。何で言わせるの?でも、それは我慢しなくちゃって分かってたから、せめて小説の中でと思って頼んだのに、どうして他の男と寝るんだよ!」
タクマはベッドからカバっと起き上がったかと思うと、強い男の力で私の身体を引き寄せ、私はベッドに押し倒される。
下から見上げるタクマの顔は、狂暴な男のそれではなく、泣き出す寸前の子供のような表情をしている。
ダメダメ、このまま流されては、いけない。
きゅんとなって、そのままタクマを受け入れたくなる気持ちをぐっと抑え、私は西崎チューターとしてタクマを諭す。
「タクマ君、わかった。私とセックスしよう。私もタクマ君としたい。でも、それは今日じゃない。あと2ヶ月、本当に頑張って。志望大学に合格したら、私を抱いて。それまでは......。」
私は自分からタクマに唇を寄せる。
夢中で舌を差し入れてくるタクマを受け止めながら、背中を撫でる。タクマが落ち着くのを待って、そっと唇を離す。
「今日はここまでよ。続きは2ヶ月後。おりて。。。」
切なそうに私を見るタクマの胸をそっと押し、私はベッドから起き上がる。
「明日からちゃんと予備校に通うこと。わかった?」
こくんと頷くタクマの唇に小さなキスをし、乱れた服を整えて、私はタクマの部屋を後にする。
翌日、大教室で授業を受けているタクマを廊下の窓から確認し、安心してチューター室に戻ろうとすると、塾長の松本に呼び止められる。
「西崎チューター、ちょっと塾長室まで来てください。」
「はい......。?」
私は松本に続いて、塾長室に入る。
「失礼します。」
「ドアを閉めて、そちらの席に座ってください。ちょっと見て欲しいものがあるんです。」
塾長の松本はそう言うと、リモコンのスイッチを操作する。
「あっ。。!」
「西崎チューター、これ貴女ですよね?」
塾長室には、各教室の様子をチェックできるようモニターが数台設置されている。
その1台に、教卓の上で両足を広げている私と、その間に顔を埋めている木島の後頭部が映し出される。。。
(続)
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