「お願いって?」
私は動揺を悟られないよう、尋ねる。
タクマは身を乗り出して、ひそひそ話を続ける。
「否定しないんですね。簡単です。玲子さんの小説、男が全部『貴方』と表現されてますよね?あれを俺の名前にして、一つ作品を書いて、配信してください。人妻と二十歳の男とのSEX。それを聞いてみたい。。。あ、本名でなくて、メールに書いた『カイ』でいいです!」
「そんな......。」
「俺、今、本当にモチベーション下がっちゃってて。なんか、励みにしたいんです。」
「。。。本当に勉強頑張る?」
「絶対!」
「なら、週明けの単語と熟語のテスト、9割以上取れる?」
「取ります!」
「ほんとね。じゃあ、その点数が取れたら。ダメだったら、この話は無しよ。」
「交換条件ですね。分かりました!」
タクマは元気良く帰っていく。
まさか、あのメールを寄越したのが生徒だったとは。
でも、小説の名前を変えるくらいで済む話なら......。それに、タクマは英語が苦手で小テストはいつも良くて7割。9割得点できたことなどないし、実行しなくて済む話かもしれない。
私はその時、その程度のことしか考えていなかった。
翌週、タクマの小テストの結果が出た。
96点。
やられた......。
(続)
※元投稿はこちら >>