1通の感想メールに目が留まる。
「玲子さん。いつも楽しみに朗読を聞いてます。僕、貴女の声、知ってます。 海ーカイー」
え?どういう意味?
背中がゾクッとする。
私の声を、知ってるって?
慌てて差出人を確認するが、アドレス表記のない匿名扱いのメールだった。もちろん、海、カイという名前にも心あたりはない。
私の声を知っている人物。
家族以外は、職場の人間くらいしか思いつかない。
私の職場は大学受験予備校。そこでチューターという職種の契約社員をしている。簡単に言うと、予備校生の担任のような仕事。出席管理、面談、勉強のはっぱかけ、個別の指導等々、大教室の授業以外は何でもやらされる。男性職員も多い。
でも......、あり得ない。
仮に、私の朗読が流れるあのサイトを職場の人間が見ていたとしても、名前も違うし、若干声も変えている。第一、おばさん職員の私は男性職員からすると全く興味の対象外だということが、仕事をしていてよくわかる。
サイトの官能小説と、実際の私を結びつける要因は何もない。
ちょっとした悪戯ね、きっと。
私は気を取り直して、次の作品を録音する。
『人妻 玲子の白日夢 5 プラネタリウム
貴方に指定されたのは、都内某所のプラネタリウム。目印の雑誌を手に、子供たちに混じってチケット売場に並ぶ。
開場されると私は一番後ろの端の席に座る。隣の席に上着を置いて。会場が暗くなり、ドーム状の画面いっぱい人工の星空が輝き始めると、貴方がやってきて隣の席に腰掛ける。
席を取っていた上着を膝掛けのように私の上に広げる。夏の星座の解説を聞きながら、貴方の手が広げた上着の下から忍び寄ってくる。冬の星座の解説の頃には、私の身体の暗闇は、すっかり貴方の指に支配され、内側から溢れる滴が貴方の指を濡らしてしまう。
貴方はそのうち、プラスチック状の小さな丸い個体を取り出し、私に押し付け何度も上下させる。
「玲子のブラックホール。なんでも飲み込んじゃうんだな」
そう貴方は囁くと、それを私の奥深くまで沈めてしまう。
「!」
身体に埋め込まれた個体の不規則な振動の快感に耐えながら、私は満天の星空を見上げる。』
(続)
※元投稿はこちら >>