メディカルセンターにて…
〈秘密〉
エンジンをかけ、取りあえず裕美さんの番号を登録して、車をはしらせた。
と、すぐに裕美さんから着信があった。
が、焦らすつもりも無かったが でなかった。
まだ4時前、夕飯に また出直すのも面倒と 帰り道のスーパーに寄って、酒の肴になりそうなものを買い込んで帰った。
家に着くと裕美さんからショートメールが来ていた。
『今日はありがとう。ごちそうさまでした。私の話しばかりでゴメンなさい。今度 ゆっくりと 山根さんの事 教えて下さい。木曜日 楽しみにしてます』と。
『こちらこそ ありがとうございました。
電話に出られそうな時があったらメールで教えて下さい。今日でも明日でも明後日でも 夜はいつもTV見てるだけなので。』と、レジ袋は無造作にテーブルの上において メールを返した。
と、すぐに返信があった。
『今 スーパーです、かえったら電話します』と。
居間のソファーに座ってTVをつけた、右京さんの再放送、途中~というのも手伝って全然あたまに入ってこない。
頭に入ってこないTVをつけたまま上司にメールを打った『お疲れ様です、山根です、取り急ぎ メールで失礼させて頂きます。今日はすみませんでした。しあさっての木曜日 MRI検査になりました。申し訳ありませんが宜しくお願いします。』
メールを送り、YouTubeでも…と、YouTube画面が表示されそうな時に着信画面にかわった、裕美さんだった。
「もしもし」
「もしもし、裕美です」
「今日は色々ありがとう、ご馳走さまでした」
「いえいえ、此方こそ ありがとうございました」
「帰りにね スーパー寄って お惣菜買って、今 お皿に移しかえたとこ」
「チンして食べて、って」
「え?、そんなんで良いんですか?」
「いいのよぉ!」
「どおせ何時に帰ってくるんだか分かんないんだし」
「居なきゃ居ないで『何処行ってたんだ?』ってうるさいし」
「(ご飯)無きゃ無いで『何やってたんだ?』って…」
「あたしゃ家政婦じゃない!っての!」
「でも、まだ ちゃんと会話とか有るみたいじゃないですか?」
「もっとこう…」
「あっ、ゴメンなさい、すごい失礼な事言ってますよね俺?、ゴメンなさい」
「良いのよ」
「会話たって ほとんど文句か喧嘩だけなんだから」
「…(困)そうなんですか?」
「そうそう、山根さん、ご結婚は?、なさってるんでしょ?」
「…なさってた事はありますよ」
「今も なさってますと言うか?」
「なぁにぃ それぇ?」
「バツイチ同士で再婚したんですけどね、5年位まえに。出会ったのは40になってからなんですけど」
「で、今 協議中と言うか、調停中と言うか、なんです。で、私が(家)出ました。」
「ま、向こう(妻)も別のとこに越したみたいですけど」
「なので 戸籍上 正確には まだ妻帯者です」
「ええぇ、なんでぇ?、なんでまた」
「何て言うんでしょ?、色々求めちゃうんですかね?、1度失敗してる分」
「(前の人と)比べちゃうって言うか」
「『…なんで男の人ってそうなの?、前も そう』とか、お互いに…」
「そう… なの?」
「結局 心の隙間は 金や身体じゃ埋まらない、って事なんですかね?」
「あ、何か俺 格好良い事 いってます?」
「まぁ最後まで 俺が『北風』にしかなれなかった って事だと思います」
「…そうなんだ?」
「… … …」
「… … …」(しばしの沈黙)
「あ、そうそう、山根さんの事 教えてよ」
「山根さんより私の方が(歳)上そうだけど いいのぉ?、こんなオバァチャンにチューされちゃってサ」
「俺 じきに49になりますけど、『お姉さん』だったんですか?裕美さん」
「うん、そ、『お姉さん』ね」
「山根さんが もうすぐ49って事は…(考中)」
「2つか3つ、ですよね?」
「そッ。そうね。そんぐらい。」
「…で?、教えて、教えてもらえる範囲で良いから」
「俺ですか?、何から話します?」
「錦町のアパートに住んでて」
「身長184㎝ 体重76㎏、チン長 直径とも測った事が無いので分かりませんが 早漏なのは間違いないです、ハイ!(笑)」
「ええぇッ、そうなのぉ?」
「長さと太さは今度測るとしてぇ、『早漏』は頂けないわね、どうしましょ?(笑)」
「…鍛えて頂くとか…」
「あとは『回数』でなんとか」
「まずは『回数』ね!、あとは おいおい『鍛えて』って、いきなり『下ネタ』?(笑)」
「頭 使わなくて良いかなぁ?、って」
「それもそうね」
「へぇ、184かぁ、背、高かったもんねぇ」
「あっ この人なら 好きな靴履ける、って思った。気の早い話しだけどね(笑)」
「裕美さんだって結構(高い)」
「私ぃ?、私はねぇ、縮む前は168位あったかなぁ?、縮む前はね!」
「あっ、言わないで!、バレー(ボール)とバスケットは やった事ありません、1度も」
「みんな 背が高い=バレーかバスケ、皆がみんな そぅじゃないっての」
「それはそぅと お仕事は?、明日 明後日は仕事でしょ?」
「…ですよ」
「さっき上司に『木曜日の件』連絡して…」
「そぅよね、仕事よね…」
「… … …」
「帰りは?、帰りは何時頃?」
「残業しても20:00には家に…」
「そっかぁ、うちの(主人)は 早いと19:00前には帰って来ちゃうしなぁ」
「明日は?、明日は残業?」
「…予定では」
「…そう(困)」
「…今日は?、夕飯は?、まだなんでしょ?何か作ったげよっか?」
「…夕飯て。」
「さっき食べたばかりだし、帰りにスーパーで酒の肴だけ仕入れちゃって…」
「一緒に(お酒)呑みたいなぁ」
「(錦町でしょ?、20分かからないわよね?)」(と、ブツクサ言っていた。)
「駐車場は?、駐車場 近くにある?コインパーキングとか、帰りは代行呼ぶから」
「駐車場なら2台分有るんで 停められますけど」
「代行?ですか?」
「必要ですか?、代行」
「なんせ 回数こなさなきゃなんないんで(笑) 帰れないかも?、ですよ 今日のうちには(笑)」
「それでも良いんなら (来ても)いいですけど、何て言うんですか?旦那さんには」
「そんなの どうにでもなる わよ」
「じぁ 良いの?、ホントに?」
「良いですよ」
「ただビールは俺の今晩の分しか無いんで…」
「ビール、何 呑んでんの?山根さん」
「黒ラベルです、サッポロの」
「黒ラベル サッポロ、ね。わかった。」
「そんな いいです(買ってこなくて)って」
「迎えに出たついでに買っときますから」
「(ご飯)ピザかなんかで良いでしょ?、そん時で…」
「裕美さん 末広町の◎◎銀行 分かります?、錦町っていっても そっちの方が近いんで、歩いて3分位ですから、◎◎銀行に着いたら電話して下さい」
「分かった!」
「今5時半でしょ、6時に出たとして…」
「でもアレね(悩)。そぅ 7時までにはつくわ、大丈夫?、いい?、ホントに良いの?山根さんとこ行っても、大丈夫?」
「大丈夫ですって、お待ちしてます」
「ありがとう、じゃぁね、ありがとう」
「待ってて」
期待していたとは言え、あまりに急な展開だった。
洗面所の棚からバスタオルをだして、給湯器のスイッチを入れた。
※元投稿はこちら >>