時間だけがゆっくりと進んでいく。日頃の疲労の蓄積のせいか時折睡魔に襲われた。「純也…眠くないか?」僕の言葉に返事は無かった。ふと彼を見ると頭を垂れてすでに両眼は閉じられていた。頭を下げてはまた上がりの繰り返しである。(今何時かな?)腕時計に目をやると22時を示している。ガチャ、と言うドアの音に振り返るとおばさんがコーヒーカップを乗せたトレーを持っていた。「二人ともまだ勉強しているの?頑張るのね」そう言うと再び僕と純也の間に座った。「あらっ、もう寝ているのね。圭佑君は眠くないの?」おばさんは笑いながら声を掛けてきた。「いや、もう限界ですよ。頭の中が疲れて」二、三回と自分の頭を軽く叩いた。「コーヒーでも飲んで少し休んだら?」おばさんはそう言うと僕の目の前にコーヒーカップを置いた。両手で受け皿を廻すと取っ手の部分が右側に向いた。持ちやすいようにとの配慮であろう。何気ない立ち振舞いが上品で知的に感じ取れた。「あ、ありがとうございます。おばさんこそまだ寝ないんですか?」少し口元に笑みを見せると、「純也は要らないようね。」そう言って僕を見た。「ちょっとね、仕事の事で資料つくっていたの。圭佑君はミルクとお砂糖は?」「僕はブラックで…」おばさんは頷くと自分もコーヒーを口にした。
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