彼女が出ていった部屋は一瞬で静寂につつまれた。目の前では純也がテーブルに覆い被さるように寝入っていた。少しばかりの香水の残り香だけが漂っていた。生物学のテキストを眺めながらも、心の奥底では純也のお母さんの事を考えていた。ページを捲りながら、テキストのページ数だけは増えていった。某の法則やら、難しい理論などは勿論頭の中には入って来ない。まるで、漫画雑誌でも読んでいる感覚である。ふと、途中のページで指が止まった。生き物の雌雄について書かれていた部分である。(生物は、植物であれ、動物であれ、自らの種を残す為に自然界における原理によって、繁殖してきた。我々人間も同じである)。声は出さないものの、頭の中で文章を読み綴った。(植物は昆虫類や、自然界のあらゆるものを媒体とし花の
雄芯から花粉を雌芯へと運ぶことによりその役割を果たす。それが、果実になったり、種子となるのである。我々人間を含む生物も同様である。手段は違うが、道理は同じである。違うのは、雌雄を結ぶ媒体が存在しなく、直接的な行為である。雌雄の生殖器による受精である。魚類などは、産み落とされた卵に精液を掛けて受精される。)。僕の頭の中は、一瞬でフリーズしていた。
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