「物事の本質…ですか?」余り聞き慣れない言葉に戸惑っていた。「そう、物事の本質。そうね…例えば、いつもは気付かなかったような事に気付く…木々の新緑が新鮮に見えたり、何気なく見ていた花が綺麗に見えたり…空を見上げれば、空が青いって気付いたり…自分の内面で感じる事かな…」彼女は両手で顔を支えるようにテーブルに肘を着いた。「中々…難しいですね。自分の内面で気付く事ですか…」。テキストに目をやりながらも、彼女の表情、そしてテーブルに乗せられた彼女の豊かな両胸を観察していた。「難しく感じるけど…純粋な気持ちで見れば感じられると思うわ…その有りのままの姿を見つめるの。そして、心の中にある…そうね…カメラかビデオに撮る感じかな。雑念を捨てて…物事の在るがままの姿を焼き付ける…私ならそう思うけどね。この場合は、女性を見て春の訪れのように感じる訳だから…この女性に対しての好意って言うか…好きだった事に気付く訳ね」。彼女の説明に対し、理解出来る部分と出来ない部分に分けられた。「なんか…難しいですね。物事の本質を見るって。自分の内面なんて見えるもんじゃないし…」。
春の訪れで、木々の芽が新緑になるように、自分の心の中にゆっくりと進んでいく目覚めを感じ取っていた。
「純也ね…小さい頃にカーネーションの花をプレゼントしてくれた事があったの。一輪だけのカーネーションだったけど。嬉しくてね…何処かで聞いたのね。母の日にカーネーションを送ること…。」。毛布を掛けて寝ている純也を見ながら昔の思い出話をした。「純也、昔から優しかったんですね。今もそうですよ。」
「そしたらね、そのカーネーションどこから持って来たと思う?他人様の庭に咲いていたのを一輪だけ取って来たの。もう、急いで謝罪に行ったわよ。菓子折り持って。そうしたら、純也が…そのお宅の奥様に…大好きなお母さんにあげたかった…って泣いてるの。それを聞いた奥様が鋏で庭に咲いているカーネーションを切ってね…花束作って純也に手渡してくれたの。大好きなお母さんにプレゼントしなさいって…」純也の気持ちがよほど嬉しかったのだろう。隣で寝入る我が子に視線を注いでいた。
僕もまた、純也の寝顔を見つめながら心の中で謝った。
(純也…ごめん。僕は純也のお母さんを愛してしまった。純也の大好きなお母さんを!)
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