母子の何気ない日常生活を横目に、僕はさも難題に直面したような面持ちでテキストに向かっていた。「どうしたの?圭佑君、そんな怖い顔して…」。ただならぬ気配を感じ取ったのか、おばさんが僕の顔を覗き込んでいた。先程借りた毛布を急ぎ膝掛けのようにし、身体の異変を感じ取られないようにした。「いや、この文言をどう言う風に捉えれば良いかと思って…」。勿論咄嗟に出た言い訳であった。「どれ?どこ?」彼女は一緒に考えてくれようとしたのか、僕の見ているテキストに顔を近付けた。「圭佑君、どの部分?」当てもない言い訳であるから特定の部分は無かった。「この、目覚め…と言う部分です。これをどう解釈していいのか…」。余りの苦しさからか、目の前にあった一文を指差した。彼女の甘い香水の匂いが鼻を擽った。彼女は、右手で髪を後ろに直しながらテキストに見入った。「どれどれ…彼女を見ると僕の心はまるで春の陽気のように目覚めた…この部分ね?」。僕の指差した部分を読み上げると暫く考え込んだ。「そうね…一言に目覚めと言っても色んな意味があるけど…この場合は、物事の本質に気付く事かな…」。僕の勝手な質問に真剣に答えてくれていた。
※元投稿はこちら >>