土曜日の夕方。お客さんが誰もいないのを見計らって、僕はおばさんのお店へと足を運んでいました。
奥から現れたおばさんに、『明日、ノンちゃんのところ行く?行くなら、僕も行こうかなと思うんですが。』と聞いてみる。
『私は行くけど、』と言った彼女だったが、『ナオヤくん、気を使わなくていいのよ?』と言われてしまう。
1年以上も音沙汰のなかった僕が、突然何度も訪れるというのはどこか怪しまれてるのだろうか。
しかし、『ならナオヤくん、私乗せていってくれる?』と言って来たのだ。おばさんは車も免許もない。
病院は歩くにはちょっと遠く、タクシーで行くには近すぎる距離。そこで頼まれたのでした。
日曜日の午前中。僕はおばさんのお店の前へと車を付けた。僕の駐車場だと、家から母に見られる危険があったからだ。
おばさんは手荷物を1つだけ持ち、『ごめんなさいねぇ。お願いします。』と丁寧に僕に言って来る。そして車を走らせ、数分で病院へと着きます。
車を降りると『僕、持つわぁ。』と、おばさんから手荷物を取り上げた。『私、持つからいいのよ?』と言われたが、渡しはしなかった。
病室では、やはり重い空気となってしまう。彼に笑って声を掛けてはいるが、これは本心ではない。こんな愛想程度の会話など、彼とするはずがないのだ。
おばさんは、彼を赤ちゃんのように扱っていました。その彼が、僕の時よりも喜んでいるのが分かります。やはり、親子なのです。
お昼1時が過ぎました。おばさんを乗せて来ただけに、帰るに帰れない僕は、『僕、そろそろ帰ります。』と伝えました。
おばさんは、『ごめんねぇ?遅くなっちゃって。』と言い、見送りをしてくれるのかと思いきや、彼に別れを告げ始めます。おばさんも帰るつもりなのでした。
おばさんの家の前に車を着けました。降りようとする彼女が、『ナオヤくん、車置いて来て!』と言ってくれます。
きっと、遅くなってしまったお昼ごはんを気にされているのです。
駐車場に車を停め、お店へと向かいます。休日のシャッターは僕のために半分だけ開けられていて、くぐりました。
しかし、そこにはおばさんの姿はなく、もう奥のリビングへと行ってしまっています。お店の壁にスイッチを見つけました。
押すと、『ギィィ~。』と鈍い音を立てながら、シャッターが閉まって行きます。それを見ながら、『この家、二人だけだ。』と意味深なことを思ってしまうのです。
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