それは、平日の夕方。僕は終業前に退社をし、ある大型病院にいました。駐車場に車を停め、病院の待合室へと向かいます。
そこに、おばさんが待ってくれていました。『忙しいのにありがとうねぇ?』と言われ、そのまま4階へとエレベーターで上がります。
やたらと広いエレベーターにおばさんと二人。しかし、会話はありません。この空間がもどかしいのです。
そして、ある病室へと着きました。部屋の入口には、彼の名前が書かれています。
部屋へ入ると、『ヤスちゃん?ナオヤくん、来てくれたよぉ~?』とおばさんが誰かに声を掛けています。
最初、誰なのか分かりませんでした。しかし、それは紛れもなく友人のノンちゃんだったのです。
近寄るのが怖かった。現実を受け入れるのが怖かった。確かに目は開いている。しかし、視線が変わらない。口は開いているが、人の言葉が発せられない。
『ノンちゃん…。』
なんとか声を掛けたが、もうそれ以上は言葉が出なかった。悔し涙が溢れていたのです。
それでも15分もすれば、現実を受け止めていました。おばさんと二人で、『ノンちゃん?』『笑ってるねぇ?』と声を掛けることが出来ました。
最後に彼の手を取り、握手をさせてもらって病室を出ます。おばさんからは、『ありがとうねぇ。』とお礼を言われました。
そして、『会ってよかった?』と聞かれ、『もちろんです。』と答えました。おばさんも僕に彼の姿を見せることは、やはり不安があったようです。
そして、一人エレベーターへと乗ります。締まる扉からは、頭を下げてくれるおばさんの姿がありました。
扉が締まると、一息をつきます。
そして、握手の時に彼に伝えたことを思い出していました。
『ノンちゃん?僕ねぇ、君のお母さんのこと好きになってるんよ。どうしたらいい?』
もちろん、彼は何も答えてはくれませんでした。しかし、こう思いたかった。『頑張って。』と言ってくれたと。
※元投稿はこちら >>