加寿代さんは焦っていた。半年ぶりの手淫にも関わらず、頭の中には何も思い浮かべず、ただ女性器への快楽を求めた。
それは、息子が使っていたと思われるこのローター、それを使ってしまっている自分に後ろめたさを感じたからだろう。
『早く、早く終わって。』と自分が昇天してしまうことを望んだ。だから焦っていたのだ。それは、自分を満足させるためだけのオナニー。ただそれだけ。
ローターはクリトリスに当てられ、指はオマンコへの出し入れを繰り返す。『もうすぐ…。』、そう思った時、彼女の手はギアを1つあげてしまうのだ。
『ウウゥゥ~!!』
誰もいない家、誰にも聞かれることはない空間なのに、加寿代さんは声をあげることに躊躇い、下唇を噛んで押し殺す。
それが、何年も同じことを繰り返している彼女のやり方。彼女はこうやって、自分の身体を満たして来たのだ。
彼女は手にローターを抱え、息子の部屋へと向かった。そして、何もなかったように、またあの小さな引き出しへと戻してしまう。
『これは息子が持っていたモノ。私のモノじゃない。』と、自分を正当化させてしまう彼女。
『悪いお母さんです。』と思いながらも、そう結論付けないと自分を保てないことを彼女は知っていた。弱い女なのだ。
朝4時半。目覚まし時計が鳴る。彼女は身体を起こして、お店へと向かう。
長く休止をしていた和菓子作りの準備を始め、30分後にはやってくるお手伝いさんと二人でこの店を守るのだ。
そして、8時前にようやくシャッターを開き、『和菓子・乃むら』がオープンをするのです。
土曜日。僕はこの店に来ていた。名前も知らないお手伝いさんが応対をしてくれ、『奥さんに陽?』と話を通してくれる。
裏から現れたのは、ほぼ2年ぶりに会う乃村のおばさんだった。そんなおばさんに、『ナオヤくん、お久しぶりやねぇ?』と声を掛けられる。
『また、オープンしたんやねぇ?』と言ってあげ、僕はすぐに本題へと入った。
『乃村くん、どうなの?』
1年聞けなかったこの質問。お店が開いたことで、ようやくその機会が訪れました。『ナオヤくん、裏に来る?』おばさんは僕にそう声を掛けた。
お手伝いのおばさんがいる前では、言えない話なのがわかる。
奥へと通された。ここに入るのは、もう小学生の時以来のこととなる。小学生の時の記憶というのは忘れないもので、当時の記憶のままの家でした。
リビングに通されると、『乃村くんねぇ…、』とおばさんが語り始めてくれる。しかしそれは、僕の期待とは掛け離れた現実でした。
『乃村くんねぇ…、頑張ってるのよ。頑張ってるけど、ナオヤくんの知ってる形では、もう戻って来ないと思う。』
そう伝えてくれたおばさんですが、あまりの残念な言葉に、その場が沈黙をしてしまうのです。
数秒の沈黙の後、『あの子と、ずっと仲良くしてくれてありがとうねぇ?』と言われ、その言葉に一瞬で目が潤んだ。
もうここに居たくないと思った僕は、『おばちゃん、本当のこと教えてくれて、ありがとうねぇ。』と言って、その場を立ち去るのでした。
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