港から離れ、すぐに山道へと入ります。古い石段、左右には廃虚、やはりこの島には数十人程度の方しか住んではいないようです。
加寿代さんと手を繋ぎ、一緒に歩きますが、やはり彼女のスピードは遅い。猫背気味の姿勢の悪さが、余計に彼女の『老い』を感じさせるのです。
5分足らずのところに、その家はありました。加寿代さんの生家です。しかし、雑草に覆われ、見える屋根は落ち、もう人が住んでいた面影もありません。
十何年ぶりに訪れたであろうおばさんも、あまりの変わりように言葉はないようでした。
脇道へと入りました。建物の形から、見えてきたのが学校だというのが分かります。廃校になっても、運動場だけはちゃんと使用出来るようです。
更に進むとプールがあります。それを見たおばさんは、『こっちは変わってないわぁ。』と言います。
校舎は改築されたようですが、プールは加寿代さんが使っていたそのままのようです。カギも掛かってなく、僕たちはプールへと入ります。
水は抜かれていました。ドロやゴミで多いつくされています。そんなプールでも彼女は見詰めているのは、自分の子供の頃を思い出しているのでしょうか。
加寿代さんはプールサイドにあったベンチへと腰をおろします。少し疲れたようです。僕も遅れてではありますが、おばさんの隣へと座ります。
彼女は、一人プールを眺めていました。いろいろ思うこともあるようです。
そんな彼女でしたが、僕はそこでも加寿代さんの手を求めました。座って膝に置いていた彼女の手を、普通に取ってしまったのです。
しかし、これは今までのものとは意味合いが違いました。『一緒に歩くから。』、『僕が手を引いてあげるから。』と、だから自然と繋げていたのです。
その手はもう、『あなたに触れていたいから。』なのです。おかげで、一瞬に二人の間の空気がかわります。
お互いにどこか、『しまった。』って雰囲気を出してしまっています。
『ナオヤくん、いかんよ?』
先に言ったのはおばさんでした。まだ、僕がなにもしていないのに、女の彼女は『男に迫られる危険』を感じたようです。
おばさんの予感は的中をしていました。片手が胴へ、片手は肩越しへ向かい、僕はおばさんを抱き締めようとします。
おばさんは『ちょっ!ナオヤくん、ダメダメ!』と言い、抱き締められ掛かる肩を後ろへと引きます。
しかし、それでも僕の手はその肩を強く引き戻し、初めて加寿代さんを抱き締めてしまうのです。
『おばさん、好きです!』
自然に口から出ていました。『あなたが好きです!』と言い、更に強く抱き締めます。『ナオヤくん、ナオヤくん、』と子供のように呼ばれました。
『おばさん、困るから…。』と言われると、その力は緩みます。近所のおばさんにこんなことをしてる自分に、罪悪感がうまれたのです。
しかし、彼女から拒絶をして、離れることはありませんでした。納得をして、僕の方から離すことを望んでいるようです。
『ヤスくんが見てたら、怒られるわよ…?』
加寿代さんの落し文句でした。友人の名前を出されると、さすがに引き下がるしかありません。
僕が納得をして、自分から彼女を離したのは3分程度が経ってからのことでした。『離したくない。』という葛藤があったからです。
『おばさん、怒らんとって?ノンちゃんとも、おばさんとも、ずっと仲良くしていきたいから。』と伝えます。
『怒ってないよ?おばさん、全然怒ってないよ?ナオヤくんが優しいの、ちゃんと知ってる。そんなことする子じゃないって。』と慰めてくれるのでした。
港へと向かった二人。帰りの便まで、まだ50分以上ありましたが、そこで待つことに決めたのです。
おばさんの言ってくれた、『そんなことする子じゃないって。』という言葉が重く響きます。それは、僕が反省をしたからではありません。
そんな優しい言葉を掛けてくれいたにも関わらず、抱き締めていた僕は、おばさんの身体を感じ取ろうとしていたのです。
見た目よりある上背、少し丸まり気味の背中、細身ではなく肉付きのいい上半身、そして上手く隠していると思われるきっと大きな二つの乳房。
3分という短い時間、そんなことを思いながら僕は彼女を抱き締めていました。
『そんなことをする子じゃないって。』、僕は本当にそうなのでしょうか?
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