そんな頃でした。僕がいよいよ行動として、おばさんに示し始めたのは。
加寿代さんと会うのは、ほとんどが日曜日の朝。彼女が息子の病院に行く時に、僕も一緒に着いていくのだ。
駐車場に車を停め、助手席から降りてきたおばさんの手を取る。手は握られたまま歩き出し、待合い場を抜け、エレベーターに乗る。
そして、彼の病室が近づいて来た頃、ようやく離されるのだ。帰りも同じである。病室を出ると手は繋がれ、それは駐車場の車までとなる。
これは普通の行動ではない。それは、二人ともに分かっている。しかし、僕以上におばさんの方が気を使ってくれる。
『息子のお友達が私と手を繋いでくる。まだ無邪気な子供、悪気などない。』と思ってくれるため、何度も繋がれてしまうのだ。
おばさんを乗せた車は、お昼前に病院の駐車場を出ました。帰りは5分程度の道のり、出発した時にはそうなるはずでした。
しかし、車は僕達の自宅には向かわず、小さな港へと向かいます。そこに停まっている小さなボートに乗り、おばさんとある島へと渡るのです。
それは、おばさんの生家のあった島。今はもう、誰も住んではいません。
『どこか行きます?車あるから。』、僕の言葉におばさんは考えました。行く場所ではなく、僕の言ってきた言葉の意図をです。
手を握られ、そしてどこかへ行こうと誘われたことに、おばさんもやはり考えたのです。
『おばさんの島、連れていってくれる?』、考えた彼女はそう言って来ました。13時半出発、帰りは16時半。3時間半と時間が限られているため、要らぬ心配をしなくてないいと考えたのです。
ボートは20分掛け、島に着きました。港には島の方数人がいるだけで、寂しいものです。生家に向かって歩き始めた加寿代さん。
彼女予想通りに、僕にその手を掴まれます。しかし、彼女は思ってもみなかったことに慌てます。それは、手を掴んできた僕の力強さ。
誰も知らない島に来たことで、僕もどこかへ開放的になってしまい、普段よりも手に力を入れてしまったのです。
ここは、誰も僕達を知らない。おばさんも帰るに帰れない。思いがけない3時間半が始まってしまうのです。
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