日曜日の朝。先週、昼食が遅くなってしまったことを考え、この日は1時間早い午前9時におばさんのお店の前へ車をつけます。
『ありがとうねぇ?』と言って助手席へと座った彼女を見て、車を走らせます。おばさんは普段着でない、服装をしています。
しかし、どこか色が地味。派手さを嫌う彼女らしくはありますが、美形だけにどこか惜しい。
だだ顔が大きく、昔美人という感じもしますので、『洋服よりも、着物の方が絶対映えるなぁ。』なんて勝手に思ったりもします。
病院へと着きました。患者さんと思われる数人が座るひっそりとした待合い場を抜けて、エレベーターへと向かいました。
しかし、その肝心のエレベーターの前には簡易の看板が立て掛けられ、『メンテナンス中。』と書かれています。
1時間は使用が出来ないようです。看板には、使用できるエレベーターへの地図が張られています。僕はおばさんを待ちました。
彼女の判断は、『階段で行く?』でした。
僕はともかく、おばさんには不向きでした。特に身体を動かすことが苦手な彼女には、4階までの道のりは遠く、すぐに息があがり始めます。
『ちょっと休憩しましょう。』、先には声を掛けたのは僕。あまりに『ハァハァ。』言ってしまうおばさんを見かねたのです。
『ハァハァ…、だらしないねぇ?』、あまりの体力の無さを実感したのか、おばさんは自分の身体に呆れています。
3分後。僕は『あと1階っ!頑張りましょう!』と大きな声でおばさんに声を掛けてあげます。そして、その勢いのままに彼女の手を取ってしまうのです。
彼女の手は、しっかりと握られました。僕の優しさを感じてくれたのか、嫌な気はしなかったのか離そうともしません。
和菓子造りをしている手。とてもツルツルとした感じを受けます。それでも60歳の手です。老いた感じは否めません。
足取りの重いおばさんが、頑張って上っています。心配する反面、こんなことを思ってもしまいます。
『ああ~。あと10階あってもいいのに…。』
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