翌日の日曜日、私は指定された10時に、そのクリニックに向かう。
入口には「本日、休診」の札がかかっている。
恐る恐るドアを開ける。鍵はかかってない。
昨日とちがうのは、待合室が薄暗く、いつもは笑顔で迎えてくれる受付の女性も、他の患者も、つまりは誰もいないという点。
待合室で立ちすくんでいると、いつもの通り院内放送で、「診察室にお入りください。」という貴方の声が聞こえる。
私は昨日と同じように診察室のドアを開け、貴方の前の椅子に座る。
「先生、あの、時間外なのに、すみません。別に、
ものすごく急いでいたわけではないのですが。」
しどろもどろに話しだす私を遮るように、貴方はカルテに目を向けたまま、私に尋問する。
「メモに書かれていたような症状は、いつ頃からですか?」
「。。。5年ほど、前からです。」
「何かきっかけはありましたか?」
「夫が、私と行為をする前に、直前まで若い女性の映像を見てからでないと、できないことに悲しくなりました。そのうち何をしても、夫は私とは最後までできなくなり。。。そうまでして、夫と肌をあわせる意味も見いだせなくなりまして。。」
「自分で慰めることは、ありますか?」
「え?」
「オナニーはしますか?」
こんな質問に答える必要があるのだろうか。。
何か落ち着く薬をもらえれば、それでいいのに。いや、自分で恥ずかしい相談をしているのだし、医者からの質問なのだから。
「。。。はい、時々。」
「それだけでは、満足できない、と。」
「はい。」
「男性との行為で、達することはありますか?」
「??」
「セックスでイケますか?」
「。。。正直、ありません。。。自分でする時は、大丈夫なのですが。。そのためには、自分だけに集中しないと無理で。そうすると、相手に悪い気がしてしまって。」
「相手は、どんな人ですか?」
「。。。若い方です。性欲を、もて余しているような。途中で、ダメになってしまう人とするのは辛いので。」
「何人くらい?」
「同じ方と続いていた時期もありますので。。。でも。。。のべで。。10人くらいです。」
貴方は、表情を変えないまま、カルテに何かを書き込んでいる。今はこの場にいない看護師にも、このカルテは見られてしまうのだろうか。
「では、内診しましょう。隣へ。」
「内診。。。するんですか?」
「いつもしてるでしょう?それに、今の話で少し心配な部分もあるので確認しないと。」
「。。はい。。」
私は内診用の椅子がある隣の診察室に、のろのろと移動する。
(続)
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