「明後日には帰ってこれるのよね?」
ふとかけられた妻の声に、驚いて新聞を机に置く。
俺を見る妻の顔はいつもの敬子のようで・・・まったくの別人のようで・・・答える言葉がすぐに出てこなかった。
妻が不思議そうに首をかしげるのを見て、焦りながらも質問を思い出し。
「あ・・・ああ、そうだよ・・・そう、明後日の夜には帰れる。」と答えた。
「そぉ・・・」
そう残念そうな声を出した妻の意図はわからなかった。
唇だけが、ほんの少し微笑んでいるように見えた気がした。
どうかしたかい?・・・という質問が喉まででかけていたが、家の玄関を出るまでなぜか言えなかった。
「そういえば、明後日は敬子にも用事があるんだろう?」
かわりに出たのはそんな質問だった。
アルバイト先で懇親会があると、先週から聞いていた。
だから、その日は外で食事を済ませるよう頼まれていた。
出張の終わりで疲れているだろうけど、と。
「そうなのよ。本当にごめんなさい。」
申し訳なさそうにそういう敬子に「気にしなくてもいいよ」と声をかけながら出勤の準備をしに寝室に向かった。
「楽しんでおいで」というと「ありがとう。いっぱい楽しんでくる。」と笑顔の敬子がいた。
いつもよりも大きな荷物。
2泊3日の出張は何度も経験しているはずなのに、今日にかぎってそれは憂鬱になる量に感じた。
重い枷のように、取り返しのつかない何かのように感じていた。
けれどその理由は、ずっとわからなかった。
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