その祭りは、2週間後の日曜日にあるらしい。『詳しいことは、前の日の朝10時くらいに電話します。』と事務長さんに言われた。
その間、時間があればいろいろと準備しました。着るものも、彼女に合わせようと大人しいのを新調しました。
車の中で、どんな話をしようかとシミュレーションをしたりします。
明日の朝、電話がかかってくる。そんなことを思う金曜日の夜、突然携帯が鳴った。事務長さんからだった。『まさか、中止じゃ?』と頭をよぎる。
『寝てたぁ?』と第一声だった。すぐに、彼女は日曜日の予定を話し始めた。わずか2分足らず、言いたいことを言い終え、もう切る気配。
しかし、意外な展開が待っていた。仕事では、長電話の彼女は知っていた。しかし、普通の電話でも話し込み始めたのだった。
すでに30分は経過していた。この頃になると、僕の方から話題を変えていく。長く話していたい。そう思ったのだ。
結局、50分くらいの長電話になった。最後は事務長さんが、『あっ、いろいろと話し込んでごめんねぇ。おやすみなさい。』と電話を切った。
日曜日の朝10時30分。僕と事務長さんは隣の県に車を走らせ始めていた。1時間はかかりそうだ。運転席の僕は、彼女を退屈させないように、
シミュレーションしたことを実行していた。しかし、思い通りの展開にならない。少し焦りが出る。基本、この人との共通の話題がないからである。
前を見ている事務長さんが話し始めた。それは、今やっている工事の事だった。ここに来て、工事の話?こんな話、つまんないでしょ?そう思った。
しかし、逆だった。お互いに仕事ばかりしてる二人です。それも、その方の学校で。これ以上ない、共通の話題だったのです。
悲しいのですが、現地に着くまで話し足りないくらい盛り上がりました。中には、学校批判、職場批判も彼女の口から聞けて、楽しかったです。
臨時駐車場に車を停め、町に出ます。主要道路を閉鎖して、踊り子さん達が踊っています。中には、目の毒になるような姿の方も見えました。
人で埋まった歩道を、かき分けて進みます。彼女は、僕の後ろから着いてきて、たまに僕の肘辺りを摘まんで、離れないようにしていました。
人が多く、進めなくなりました。僕は、彼女の手を取り、繋ぎました。ようやく、路地に出ました。彼女と手は繋いだままになっています。
『この先だと思う。』、彼女は繋いだ手の事には触れませんでした。繋いだまま、歩いて行きます。
『すいません。手のひらに汗かいてます。』、不快にさせていると思い、先に謝りました。彼女は『ごめんなさい。たぶん、私。』と言います。
彼女はバッグからハンカチを取り出し、手のひらに握りました。そのまま、僕の手を握って来ました。『緊張すると手に汗かいちゃうのよ、私』と言ってます。
着いたのは、少し古びたお店だった。『ここのあんみつ、美味しいの。有名なのよ。食べてもらおうと思って。』と薦めてくれた。
お店であんみつ食べるなど、初めての経験だと思う。感想は、いたって普通。けど、彼女がたててくれたデートプラン。それだけで満足でした。
家に着いたのは、もう夜10時を過ぎてました。別れ惜しいですが、仕方ありません。車を降りると、『ありがとう。楽しかったわぁ。』と言ってくれました。
『お疲れさまでした。ほんと、ありがとうねぇ。』と続けられます。最後に『明日も仕事、頑張ってください。』と絞められます。
暗くて顔もよく見えなかったので、少しだけ勇気をもって言いました。『抱き締めていいですか?』とは言えず、考えて
『事務長さん?ハグさせてもらっていいですか?』
これが精一杯です。
『えぇ?ハグ??』と考えています。『こんなおばさんでいいの?』と探るように言われ、『お願いします。』と言いました。
長いハグになりました。5分近くしていたと思います。頬に唇を押し当てるのが、今は精一杯です。
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