本来の工事自体は、もう竣工していた。事務長さんからの依頼のあった小規模の工事があったため、11月に入っても、この学校への出入りは続いていた。
しかし、それも今日でお役御免。つまり検査の日である。といっても、堅苦しいものではなく、事務長含めた3人が放課後に少し見るだけの簡易的なもの。
案の定、対したことも言われず、小さな手直しだけで検査は終了した。お互いに『ありがとうございました。』と御礼を言い合う。
事務長さんを含めた3人は、先に教室を後にした。
小さな手直しだった。自分一人でも充分出来るもの。やろうかどうしようか、一人教室で考えていました。
しばらくして、再び教室の扉が開いた。事務長さんだった。『終わったねぇ。』と話し掛けてくる。二人で話しをするのは、デート以来、2週間ぶりだった。
『この前、ありがとうございました。』とデートの御礼を言った。『いえいえ、こちらこそ。』と返事が返ってきたが、後が続かない。変な緊張感がある。
『あの~、手直し30分くらいで終わるので、今からやってもいいですか?』と聞くと、『30分くらい?いいよ。』と言われた。
ところが、手持ちの材料でうまくいきそうになく、ホームセンターにでも行って買ってこないと、無理だとわかる。
事務室を訪れ、『すいません。時間かかりそうなので、また今度にします。』と言うと、『7時くらいまでならいいよ。私、いるから。』と事務長が答えた。
材料を買って来て、終わったのは予定の7時をとっくに過ぎていた。教室を出ると真っ暗で、なんか恐い。急いで、事務室に向かう。
事務室の明かりが見えた。ノックして入ると、奥の机で事務長さん一人が仕事をしていた。『終わった?』と聞いてきた。『遅くなりました。』と報告する。
『なら、先出て。私、戸締りしてくるから。』と、これから見回りをするという。
『皆さん、帰られたんですか?』と聞くと『今日、早かったねぇ。』と誰もいないらしい。
『あっ、一緒に行きます。戸締り。』と言うと、『いいよー、すぐだから。』と断られたが、同行することになる。
ライトを持って、事務室を出た。学校は静まりかえり、肝だめしである。戸締りといっても、各校舎の出口をチェックするだけだった。さすがに全部の窓は。
『いつもなんですか?恐いでしょ?』と聞くと『何年この仕事してると思ってるのよ。どの学校も同じ。』と自慢そうに返事が返ってきた。
事務室から離れ、最後の校舎になった。僕は事務長さんの手をそっと握った。月明かりだが、事務長さんの口元が緩んだのが分かる。
最後の校舎の確認が終わった。事務室から遠く離れた運動場にまで来ていた。僕はそのまま、運動場に連れて出た。
『歩こ。』と言ってみた。『寒くない?』と言われたが、返事はしなかった。そのまま、真っ暗な運動場を二人で歩く。
明かりのついた事務室が見えてきた。事務長さんは、少し疲れたのか、少し息があがっていた。手前の自販機を見つけ、コーヒーを飲む。
『あぁ~、歩いたぁ。』とお疲れ気味な言葉が出た。『普段、歩かないからです。』とからかいと『それほんと。私、全然歩かないから。』と返ってくる。
『さぁ、締めて帰ろ。』と事務長は立ち上がる。二人して、飲み干した缶をクズカゴに捨てた瞬間でした。たまらず、事務長さんを抱き締めました。
突き放されると思いました。ここは学校ですし。
少し顔を引いて、事務長さんを伺いました。(どうしよう?)僕にはそうとれました。
頭を持って、胸に引き寄せました。事務長さんは、頭を傾けて、胸に顔を埋めてくれました。
『うん。』と声をかけてあげると、『くすっ』と声が返って来ました。埋めている横顔に唇を這わせると、
自然と事務長さんの顔も上がって来ました。
顔を合わせたまま、『キスしていい?』と聞くと、『うん…。』と小さく答えてくれました。
なんとかここまで辿り着いた感じです。
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