事務室に戻ったところで、後ろから低い音が 聞こえてくるのに気が付いた。
耳をすませると、紛れもない小便の音だった。
「!、漏らしてやがる」
声は出さなかったが正直驚いた。
「あの女相当なもんだな」
いわゆるセレブというやつで、自分には縁のない世界の住人だと思っていた。刹那的に、一度だけ肉体を合わせはした。しかし、それも暇な金持ちの気紛れだと思っていた。だから、余計な気遣いなんかせずに、文字どおり蹂躙した。思い付くままに、あの肉体を責めてやった。
それがまさかこんな事になろうとは。
「少なくとも、暇潰しじゃないよな」
その確信が、密かにあったあの女に対する劣等感の様なものを打ち消した。
「あとはどのくらいなのか」
それはこれからじっくり時間をかけて調べてみよう。
俺はバソコンを閉じると、事務室の電灯を退社の時と同じように減らした。
点いている電灯は出入口だけになり、外の様子が見えるようになった。
郊外の片隅にひっそりと建つ、中小の小企業が集まった小さな工業団地。忘れられた集落のように、プレハブの事務所や倉庫が並んでいる。実際には使われていない建物の方が多いくらいだ。所々に立つ外灯のぼんやりとした灯りに照らされた建物群を窓から見ていると、なぜか気持ちが昂ってくる。
俺は着ている作業着の前を開けると、ゆっくりと給湯室のドアに向かった。
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