「えぇ、まぁ…」
徐々に緊張もほぐれてきた佳子。
「もっとリラックスして大丈夫ですよ。」
脹ら脛にローラーを滑らしながら言う斉藤。
「服が邪魔ですね。脱いでくれませんか?」
「何を言ってるんですか?そんなこと、できるわけ無いでしょ!?脱ぎませんから!」
「ですよね?ちょっと言ってみただけです。」
笑っている斉藤。
「もぅ、斉藤さん!いい加減にして下さい!!」
体を起こしかけた佳子の背中にマッサージ器を押し当てる斉藤。
「まだ足先しか終わってないですよ。もう少しうつ伏せでリラックスして下さい…どうですか?」
「どうですかって言われても…困ります…」
「そんなに困らないで下さいよ。気持ちよくないですか?こことか?」
背中を棒で圧しながら聞く斉藤。丁寧に背中と腰を圧している。
あまりに気持ちよくフゥーッと息を吐く佳子。
「このへんですか?」
もう一度、圧しながら聞く斉藤の頭には佳子に言わせたいコトバがある。
「はぃ。そこ…です」
佳子の息が抜ける。
「どうですか?」
しつこく聞かれて
「気持ちいいです…」
答えた佳子に斉藤が一瞬ニヤリとして言った。
「もっと気持ちいいことしてあげましょうか?」
「な、なにを、なにをする気なんですか?」
不安になり体を起こして座る佳子。
「ちょうどよかった。今度はあお向けになって下さい。大丈夫ですよ。」
あお向けに寝かされてしまう佳子。
いきなりオッパイの上にローラーを滑らした斉藤を睨みつけながら
「そこは何もしないでいいですから!」
キッパリ言った。
「あっ、すみません!」
すぐに謝るとローラーを鎖骨のあたりに滑らした。何故か佳子は勝った!と思ったが…すぐ謝ったのは斉藤の作戦だった。
「もう充分です!」
と起き上がる。
「まだですよ!!」
静かに言って佳子に跨がって乗っかった。
「何ですか!やめて下さい!!おりてください!!」斉藤をバンバン叩く佳子。その両腕を掴み
「佳子さん。夫がいるとか困るというのは、セックスを想像したからですよね?僕はマッサージと言っているのに…気持ちいいマッサージで連想するなんて、佳子さんも、かなりのエッチですね?本当はしたいんじゃないですか?僕は佳子さんとセックスしたいです。」
真っ直ぐ佳子を見つめながら淡々と話す斉藤。
この部屋でマッサージをしながら曖昧な言い方をすれば、たいていの大人は連想するだろう状況だった。
ベッドだけは介護用だけれど、いわばラブホテルの代わりに作られた特別室なのだから。斉藤は、それを利用して誘導したのだ。おそらく佳子は頭の中で自問自答を繰り返しているはずだ。すぐに言い返さないのが何よりの証拠だった。しばらくの間、沈黙になる二人。
静かに佳子から離れる斉藤は満面の笑顔で
「驚きました?嘘ですよ!!そんな事、思ってませんから心配しないで下さい。佳子さんが勘違いして過剰反応したなんて、誰にも言いません。もちろん山口にも、ね!!」
顔を真っ赤にして茫然と座ったままの佳子。
「明日から働いてくれるなら、今日の事は二人だけの秘密です!署名もしてくましたしね。」
佳子を部屋に残したまま斉藤は言ってしまった。
まだ頭の中がグチャグチャで、訳が分からない。斉藤に言われて否定できなかったのは、私が求めてしまったから?いったい私は何を考えてたのだろう?嘘と言った。そりゃあそうだ、斉藤なら私みたいなオバサンを相手にしなくても女に不自由なさそうだ。もしかして私のほうが誘ったのか?
斉藤の思惑通りに自問自答を繰り返す佳子。これが斉藤の狙いだった。
両手でパンッと自分の頬を叩いて、スッキリしない頭を無理矢理に奮い立たせリビングに行く。
珈琲を淹れてソファーに座る斉藤。
「少し落ち着きましたか?佳子さんのぶんも珈琲ありますから、どうぞ」
言われたままに座った。
「斉藤さん、私。変態なんですか?」
ブッハッと珈琲を吹き出して大笑いする斉藤。こぼしてしまったのをティッシュで拭き取りながら
「どうでしょうね?」
笑いながら言った。
真っ赤な顔で俯く佳子。
「佳子さん、面白くて素敵です。変態でも…」
まだ笑っている斉藤。
「もう斉藤さん!からかわないで下さい!!珈琲いただきます…」
まだ赤い顔でバツ悪そうに珈琲を飲んだ。その姿を見て、また笑う斉藤。
いたたまれなくなり珈琲を飲み干して立つ佳子
「今日は、失礼します。ごちそうさまでした。」
軽く頭を下げて玄関に向かうと斉藤がついてくる
「では、明日お待ちしております。ちゃんと来て下さいね!」
「はっ、はい。分かりました。10時に。」
と言って玄関の扉を閉めた後、ふと我に返る。
「あれっ?私、何しに来たんだっけ!?……………山口への怒りを話す…謝罪…仕事を断る…」
何も目的を果たしていない事に改めて気がついた。狐に摘まれたみたいだった。
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