朝が来た。本当に佳子は訪ねてくるだろうか?
少し不安になっていた。
一方、佳子は行きたくないが返事もしてないし、無視するわけにも行かないと悩んでいた。
夫には雇い主とトラブルになってしまい辞めたと話した。働くのは甘くないと実感した。しかし、本当の理由は誰にも話せなかった。なので誰にも相談できないのだ。
ただ山口のあの態度を誰かに話して怒りをぶつけたい気持ちがあった。それができるのは斉藤だけで、他に話せる人がいないのはゆるぎない事実だった。
家事を終わらせて時間を見ると10時を過ぎていた。昨日は保護者会で留守にしてたぶん念入りに掃除したので少し時間がかかっていた。
どうしよう…まだ行くか行かないか迷っている。
10時には来ると思っていた佳子が来ない。かなり不安に思う斉藤だが、電話をしたら断られるのが分かっていた。今は待つしかないと決意した。
この後の佳子とのバトルを想像してドリンク剤を飲んだ斉藤。
頭の中では、シュミレーションを始める。
…………よし、大丈夫。
確信していた。
11時少し前。
ピンポーン
玄関の扉を開けると佳子が立っていた。
「どうぞ!」
斉藤に招き入れられ玄関の中に入る佳子。そこからは一歩も動かない。
「お久しぶりです。あのー辞めてないとは、どう言う意味ですか?」
緊張したおももちで話す佳子に少し含み笑顔で
「まぁ、珈琲でも淹れましょう。中へどうぞ!」
斉藤が促すが
「いえ、けっこうです。すぐ帰りますから。ここで大丈夫です!」
きっぱり言った佳子。
「そうですか?私は珈琲が飲みたいのでキッチンに行きます。お菓子も用意したのに残念です。」
と言い残しキッチンへ行ってしまった。しばらく待っても戻って来ない。
「斉藤さん、聞こえますか?まだですかー?」
キッチンに向かって叫ぶ
「美味しいですよ。一緒に食べましょう!」
リビングから大声で言う斉藤。佳子には
「おーーでーーしょー」としか聞こえない。
「何を言ってるか聞こえないですよー!」
また玄関から叫ぶ佳子。
「だーーあーおーー」
としか聞こえない斉藤の声に苛立って、リビングに行く佳子。
「斉藤さん、いつまで待たせるんですか!」
と怒って斉藤を見ると…
ソファーに座って珈琲を飲みながらお菓子を食べていた。
「何をしてるんですか!人を待たせてお茶とは何を考えてるんですか!」
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