佳子の携帯が鳴る。
知らない番号からの着信。とりあえず様子をみていたが、鳴り止まないので仕方なく電話に出た。
「もしもし…」
相手が分からないので不安げに佳子が言う。
「もしもし、佳子さんですか?ご無沙汰しております。斉藤です。」
聞き覚えのある声に驚いた佳子は、
「あっ、すみません!」とっさに謝った。
「えっ、何がですか?」「だから、あのー急に…辞めてしまって…ご迷惑おかけしましたので」
「そうですか。やっぱり辞めたという認識なんですね?」
「えぇ、そうです…」
まだ申し訳なく思っている佳子は元気なく応えたたが…斉藤の言う意味が理解できなかった。
「こちらで処理したのは愛人契約の終了です!家政婦としては辞めて頂いてないのですが…」
「えっ!?どういう事ですか?よく分からなくて」
斉藤が電話の向こうで笑ってる声がする。
「ちょっと斉藤さん!笑ってないで私はどうしたらいいんですか?からかってるだけなら切りますよ!忙しいので!!」
少し強い口調の佳子に、
「すみません、今日はお忙しかったのなら、明日お待ちしてます!もう一度こちらに来て下さい!待ってますから!」
とだけ言って返事も聞かずに電話を切った斉藤。
「もしもし?もしもし!?斉藤さん!」
切られた電話に応答があるわけもなく、苛立ってしまう佳子。
次の仕事も決まらず専業主婦に戻っていた。時間はあるけど…あのマンションには行く気になれなかった。頭の中がモヤモヤしている。
ふと気付くと時間が過ぎていた。今日は子供の保護者会で学校に行かなければならない時間が迫っている。あら、大変!と身支度を整えて、学校に行くことにした。
一方、斉藤は心が弾んでいた。わざと周りくどい言い方をして佳子が慌てたのが面白くて楽しくてたまらなかった。電話で拒否できないように返事を聞かずに電話を切ったのだ。佳子は訪ねてくると信じていた。
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