翌日はとても仕事が手に着く状態ではなかったので、もう一日、年休をもらい、午前中、以前調査を
依頼した探偵社を訪れました。どうやら探偵員はずっと私のことを気にかけていたようで、その後の状況を
私から簡単に聞いた探偵員は、早速、知り合いの弁護士を紹介してくれました。そして昼過ぎに、隣町にある
弁護士事務所を訪れました。一見、気さくそうなその弁護士は、萩原のことを以前からよく知っていたよう
でした。
「それにしても、奥さん、やっかいなヤツにつかまりましたな・・・」
「やっかいなヤツって?」
「まあ・・・萩原ってヤツはこの界隈では結構、名をはせたヤクザでしてね・・・これまでに2回、傷害事件を
起こしてムショ暮らしをしています。一回目はヤクザ同士の抗争で他の組員を・・・そして、二回目は、
死んだ女房の元夫を半殺しにしています。」
「・・・」
「それに、たちの悪いことに薬の常習者で・・・これでも何回かつかまってます・・・きっと今でも切れて
ないんじゃないですかね・・・もしかして奥さんを虜にしたのも、薬のせいかもしれませんよ・・・薬を
やるとやたら精力絶倫になる男がいるらしいですからねえ・・・いや・・・これは失敬・・・今のは忘れて
下さい・・・しかし、心配なのは奥さんですよ・・・とにかく、久しぶりに、萩原に会ってみましょう
・・・ただ、あまり期待しないで下さい・・・なんせ、 一筋縄ではいかない相手ですから・・・特に
薬をやっている時は・・・もう手に負えない・・・」
弁護士はそう言うと、萩原の店に向かいました。私は、自宅に戻り、弁護士からの連絡を待ちました。
その後、弁護士から連絡が入ったのは午後5時をまわった頃でした。電話口で話す様子から、私にとって
良くない報告があることはすぐにわかりました。その後、私は探偵社で弁護士と落ち合いました。そして、
弁護士から驚愕の事実を聞かされたのでした。
「店に行ってみたんですけどね・・・表も裏も閉まっていて・・・」
「あの店・・・いつも昼間はそうですよ・・・きっと二人は、二階にいるはずです・・・」
「ええ、私もそう思ったんですけど・・・よく見ると、表にこんな張り紙がしてあってですな・・・」
そう言いながら、弁護士が出したのは一枚の紙切れで、そこには手書きの文字で「事情により、本日を
もって休業いたします。長い間、ありがとうございました。 店主」と書かれていました。
「これは?」
「はい・・・私もビックリしてねえ・・・そしたら、店の中から若い男が突然、出てきたんですよ。どうやら
一昨日まで、アルバイトで働いていたらしくて、彼に話を聞いたところ、昨日の夜に突然、萩原から電話が
かかってきて、店を閉じるからと突然、言われたんだそうです。そして、これまでのバイト代に色をつけた
分を食堂のテーブルに置いておくから、明日、取りに来てくれ。しばらく俺は旅に出るから、悪いけど、
空き瓶やら生ゴミの処分だけはしておいてくれ・・・そう言われたんだそうです。」
「・・・」
「それで、念のため、中を見せてもらおうと思って、その青年にチップ弾んで、しばらく見せてもらいました。
厨房はすっかり片付いていました。そして2階もこぎれいになっていましたなあ。」
「それじゃあ・・・妻は・・・?」
「うーん・・・これはあくまで私の勘ですが、何かの理由で萩原は、あそこにいれんようになった・・・おそらく
借金かなにか・・・まあ、そんなところだと思いますが・・・だから、店をたたみ奥さんを連れて、 そそくさと
出て言ったんじゃないですかね・・・事の真相は、あの店の、この後の様子を見ていればわかりますけどな・・・」
「・・・」
「まあ・・・そんな事情があって、萩原は奥さんとのこと、急いでいたんじゃないですか・・・だが、これで、
かなり難しくなってしまった・・・」
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