私は、病院玄関前でタクシーをひろうと、萩原の店へとむかいました。「もしかしたら二人は
どこかホテルに直行したかもしれない・・・いや、絶対にあの店だ・・・」私はこの時、自分が
カラダが不自由であることなど、忘れていました。やがて15分ほどで、店前につきました。私は
タクシーを降りると、店を見渡しました。当然、店は閉まっており、静まりかえっています。二階の
窓はカーテンがしまっていました。「あの部屋だな、二人がいるのは・・・」私は、覚悟を決めると、
松葉杖をつきながら裏口へとむかいました。裏の駐車場には、探偵が撮った写真と同じ、萩原の
自動車が停まっていました。「やっぱり、二人はここに戻ってきているんだ・・・」私は心臓の鼓動が
高まるのを抑えられずにいました。そして、裏口に鍵がかかっているのを確認すると、ポケットから
鍵を取り出しました。「やっぱり、つくっておいて良かったな・・・まさか、こうして使うことに
なるとは・・・」私は、妻と萩原の不倫が発覚した時、妻には内緒で、店の裏口の合い鍵を作って
おいたのでした。ガチャっと音がして、裏口の扉が開きました。私はゆっくりとドアを開け、外から
そっと、中の様子を伺いました。店内は薄暗く静まりかえり、人の気配はしませんでした。私は音を
立てないように、店内に入りました。そして、誰もいないことを確認すると、松葉杖を置き、壁や
テーブルにつかまりながら、慎重に奥へと進みました。依然として静寂が周囲を包んでいます。
そして、ようやく2階へと通じる階段の下にたどり着きました。私はそこで耳を澄まして、2階の
様子を伺いました。すると、かすかに声がするのがわかりました。はっきりとは聞き取れませんが、
確かに男と女の会話する声でした。私は、決心すると、ゆっくりと不自由なカラダを必死で動かし
ながら、這いずるように階段を上っていきました。階段を上るにつれて、二人の会話の声ははっきりと
してきました。言うまでもなく、女の声の主は妻でした。
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