探偵員は心配そうに私の顔を見ながら、立ち去って行きました。手元には、写真を含めた調査資料一式が
残されました。「さて、これからどうしよう?」予想通り、妻は萩原とのよりを戻したのです。何がきっかけで
そのようなことになったのかはわかりませんが、どうやら今度こそは、妻は私たち家族ではなく萩原を選択した
ようで、私には妻がもう手の届かないところへ行ってしまったように思えました。そんな目で見ると、最近の
妻の様子は、すべてが義務的に感じてしまいます。探偵からの報告があった翌日、妻がいつものように見舞いに
来ました。土曜日ということで妻はいつもより早く午後1時に病室に来ました。一通り、私の世話をしてベッドの
脇に腰掛けた妻に私は言いました。
「なあ・・・どうやら来週の末には退院出来るらしい・・・」
「・・・えっ?・・・そんなんですか・・・」
「なんだ・・・俺が退院するのがイヤなのか・・・」
「いいえ・・・何言ってるの・・・そんなことあるわけないじゃないですか・・・急な話だったのビックリしただけ・・・」
私は妻の顔に、一瞬浮かんだ困惑した表情を見逃しませんでした。
「ねえ、あなた・・・」
「何だ?」
「今日、少し早く帰っていいですか?・・・」
「どうした?何かあるのか?」
「ええ・・・そろそろ春物の洋服を出さないと・・・タンスの整理をしたいの・・・あなたが退院するのなら、なおさら
用意しないと・・・」
「・・・そうか、そんな時期になったのか・・・」
こうして、この日、妻は午後3時過ぎに病室を出ました。私も売店に買い物があったので、妻と一緒に途中まで松葉杖を
つきながらエレベーターで1階まで降り、そこで妻と別れました。しかし、私は妙な胸騒ぎを覚え、少ししてから、そっと
妻の後を追いました。やがて、遠くに病院の玄関ロービーを歩く妻の後ろ姿が見えました。すると、ロビーに腰掛けていた
一人の男が妻の前にすっと立ちました。妻は驚いた様子を見せず、二人は一言二言会話を交わすと、並んで出口へと歩き
始めました。そのがっちりとした男の後ろ姿は、萩原に違いありませんでした。萩原は、病院の玄関を出る寸前、妻の腰に
手をまわすと、ぐっと抱き寄せました。妻は一瞬、周囲を気にするように後ろを振り返りましたが、その後はされるがまま、
二人はまるで恋人のような雰囲気で病院を出て行ったのです。「行くな!」私は心の中でそう叫びました。病院を出た瞬間
から、妻は、妻として、母親としての自分を捨て、萩原の愛を受け止める一人の女となってしまうのでしょう。私の脳裏には、
萩原の布団の上で、全裸で抱かれ、歓喜の声を上げる妻の淫らな姿が浮かびました。もう、私は嫉妬と怒りで発狂しそうに
なりました。それでも、私は、不自由なカラダであるが故に、どうすることも出来ませんでした。これから妻があの男に
寝取られることをわかっていながら、何も手をうつことができない歯がゆさ、惨めさを私はイヤと言うほど味わっていました。
今頃、萩原は念願かない、妻を完全に我が物にできた喜びと満足感、優越感に浸っていることでしょう。もう、私はいても
立ってもいられず、すぐに病室に戻ると、外出許可をもらいにナースステーションに行きました。幸い、夕食までには戻る
という条件で一時的な外出許可が簡単に出ました。
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