『23』
受付は窓口になっていて、客となるべく接触しない様に造られている。
建物全体がそんな造りになっていて、どこにでもあるラブホテルと一緒の様だ。
とはいえ、完全に周りと遮断されているわけではなかった。
受付にいたのは中年女性で、見た目は幸子には遠く及ばない。
その女は、好色の眼差しで二人を見ていた。
典夫と幸子の外見は、どう見ても若くはない。
普通なら、不倫カップルだと思っても不思議ではないはず。
誰も、二人の関係性には気付かないだろう。
だが、幸子の心配はこういう所にもあった。
自分の存在が気付かれないかという事だ。
以前はメディアに何度も出ていた。
ましてや、一年程前にも県内のテレビに出演し、大きな反響があった。
幸子は、いまやちょっとした有名人なのだ。
従業員はもちろん、廊下で他の客とすれ違う時に気付かれないとは限らない。
しかも、近くにある裁判所の職員達とも面識がある。
その者達が、ラブホテルに来ないという保証はどこにもないのだ。
幸子だと気付かれれば、噂はすぐに広まるに違いない。
部屋を選び、歩き出した典夫の後ろに隠れる様に幸子は付いていった。
念の為、スーツの襟に付けていた弁護士バッチも建物に入る前に外しておいた。
仮に幸子を知らなかったとしても、弁護士がラブホテルに出入りしていると気付けば、そこから身元が割れる可能性もあるからだ。
しかし、幸子のその心配は必要なかった。
幸いにも、二人が部屋に行くまでの間は誰とも遇わなかったのだ。
幸子は、とりあえずホッと一安心した。
とはいえ、ここからが本当の地獄なのだ。
典夫は、ドアを開けるなり入口で革靴を脱ぐと、部屋の中へ入っていった。
入りたくはなかったが、いつまでも廊下でウロウロしているわけにもいかず、幸子もそれに続いた。
黒のハイヒールを入口で脱ぎ、少しだけ進むと幸子は立ち止まった。
室内は照明が薄暗く、独特な匂いに包み込まれている。
やはり、異様な雰囲気は幸子を躊躇させた。
だが、そんな幸子に典夫は迫ったのだった。
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