『22』
小さな路地に入って間もなく、辺りは妖しいネオンに包まれていた。
大きなビルが建ち並んではいるが、先程の大通りにあったオフィスビルとは明らかに違う。
ラブホテル街だった。
つまり典夫は、ラブホテルの室内で気兼ね無く幸子を犯すつもりなのだろう。
しかし、幸子はラブホテルでの行為にはかなりの抵抗感があった。
何故なら、幸子は男と一度もラブホテルに入った事が無いのだ。
もちろん、愛する由英とでさえ行った経験が無い。
ラブホテル=淫靡、幸子にはそんな印象があったのだ。
とはいえ、仕事では何度か訪れた記憶はある。
同僚の女性とではあったが、それでも何ともいえぬ淫靡な雰囲気を嫌悪した。
性に消極的な幸子なら、それも納得ができる。
(こんな所で・・・)
由英ならまだしも、初めてラブホテルに一緒に入る男が淫獣である典夫とは・・・。
幸子ならラブホテルという場所は嫌っているはず、典夫は恐らくそんな幸子の心情を知った上で敢えて選んだのだろう。
ラブホテルの室内で一体どんな行為を強いられるのか、幸子は不安でハンドルを握る手が震えだした。
そして、幸子の想いなど理解するはずもなく、典夫は一軒のラブホテルへと入っていった。
赤いレンガ調のビル、どうやら駐車場は地下にあるようだ。
拒めば、典夫は家族を捲き込むかもしれない・・・。
幸子はハンドルをギュッと強く握り締め、典夫の後に続いて地下駐車場へと入っていった。
週末の夜という事もあってか、意外にも混んでいる様だ。
ようやく空いていた二台の駐車スペースに典夫が車を停めると、幸子も隣に停めた。
典夫は待ちきれないのか、すぐに車から降りた。
幸子もそれに続いて車から降りた。
濃紺のスーツとスカート、中に白いYシャツにベージュのストッキング、そして黒のハイヒール。
よりによって、今日の幸子の服装は由英からプレゼントされたものだった。
そんな幸子の全身を嘗める様に見た典夫は、何も言わずに歩き出した。
とにかく逆らわずに付いてこい、典夫の背中がそう言っていた。
手には、大きなボストンバッグを持っている。
一体、あの中には何が入っているのだろう。
幸子は、不安と恐怖に襲われながら典夫に付いていくしかなかった。
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