『5』
とはいえ、このまま落ち込んでばかりもいられない。
幸子が、わざわざ早起きしたのには理由があったのだ。
もちろん、こんな早朝からの仕事など無い。
家族と顔を合わす事を避けたかったというのもある。
しかし、一番の理由はこの事務所で昨晩行われた淫醜行為の隠蔽だった。
事務所内を元通りにしなければ、仕事など出来るはずがない。
他人がこの光景を見てしまえば、あらぬ噂を広げられてしまうだろう。
ましてや、今日から弥生が戻ってくるのだ。
出勤してくる弥生より早くここへ来て、全てを片付けなければいけなかった。
これも家族の為だ。
全てを幸子の中だけに留めておく以外、家族の幸せは無い。
とにかく、それが今の幸子に出来る事だった。
たとえ、今後も淫獣達に弄ばれたとしても家族の幸せが失われる事だけは絶対にあってはならない。
幸子にとって、それこそが生き甲斐なのだから。
もちろん、幸子も黙って淫獣達の言いなりになり続けるつもりは毛頭無い。
少しでもこの状況を打開するチャンスがあれば、死に物狂いで立場を逆転させる機会を窺っているのだ。
また心の底から家族と笑いあえる日が来る事を期待し、幸子は持ち前の気丈な性格で気持ちを切り替えた。
幸子ほど、気丈な女はどこにもいないに違いない。
そんな幸子がすぐに気になったのは、臭いだった。
淫獣達の放った精液の悪臭が、室内中に漂っていたのだ。
顔を背けたくなるほどの異臭、幸子は急いで窓を開けようとした。
だが、デスクの後ろの窓からは西尾の家が見えた。
正面に見える窓が西尾の部屋だという事は、昨日の淫醜行為中に西尾本人から聞かされていた。
「いつもあの窓からお前の事を視てたんだ」
そんな不気味な言葉を耳元で何度も囁いていた。
幸子は、西尾の部屋の窓を恐る恐る注視した。
窓にはカーテンが掛けられ、覗いている気配は無い。
あれだけ激しく体力、精力を消耗したのだ。
正に精根尽き果て、爆睡しているに違いない。
西尾が覗いていない事を確認し、幸子は窓を開けた。
すると、ようやく悪臭が室内から抜け出し、空気の入れ換えに成功した。
「やるしかないわね・・・・・よしっ!」
幸子は気持ちを奮い立たせ、続いて事務所内の掃除をはじめる事にした。
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