雅子は夫の入院する××病院に向かった。
夫の龍一はすでに帰宅の準備を整え雅子を待っていた。
満長より若いはずの龍一の頬はこけ白髪交じりの薄い髪は随分と老いて見えた。
「どうなの具合は・・・・」
「・・・・・」
龍一の様子が一段と弱っていて返事すら返ってこない事に雅子は不安になった。
そこへ看護婦が入ってきて雅子に言った。
「先生からお伝えしたい事があるとのことです、寄ってください」
そう伝えると部屋を足早に出ていた。
雅子は車椅子に夫を残して担当医のいる医務室を訪ねた。
「先生、お世話になります」
雅子の声で振り向く医師は益々艶めく雅子を見て驚いた。
「実はご主人このままでは長く病院にはおれません、どこか施設を考えてください」
病院は経営状態で龍一のような患者は長く置かないようにして、介護施設への入居を勧めるのである。
しかし、更なる出費は雅子には負担であった。
「じゃあ一週間退院を許可します」
医師はそう伝えて席を立つのであった。
久しぶりの帰宅であるが雅子は暗い気持ちであった。
その夜、雅子は龍一の為に食材を買い手料理を作った。
「龍さん、どう・・・美味しいでしょう」
自慢のクリームコロッケとなめし汁、夫婦のささやかな食事である。
龍一は無口だがそれでも愛する妻の顔が見えるだけで幸せであった。
食事を終えると少しテレビを観ていたがすぐに床に就いた。
雅子の手を借りなければ寝ることも出来ない身体である。
雅子は龍一の洗濯物を片付けながらこの先を案じていた。
静まり返った借家には、はや秋の気配が感じられた。
※元投稿はこちら >>