8月・・・夏も真っ盛りになり毎日暑い日が続いています。
私は時間の許す限り、彼の休日にはパート後に彼の元に
向かい、彼からの愛情をもらっています・・・とホントは
言いたいのですが、実はなかなかタイミングが合わず、
彼に逢いに行く機会を失いつつありました・・・。
そんな事もあり、セピア色の生活に戻った時の憂い・・・
いえ、乾きにも似た(もどかしさ)は癒やせずにいます。
夏の暑さに身体が付いて行けないのも手伝って
食欲は徐々に減り、体調も良くありません。
決して無理をしているつもりはなかったのですが、
お盆を前にして、私はとうとう貧血を起こして倒れてしまい
まったのでした・・・。
彼は帰省して居ませんし、私も夫の実家に行く予定でした
のでパートもお休みをもらっていましたが、それが丸々
静養する事になってしまうとは・・・・。
一応夫は
「俺も残ろうか?」
と聞いて来ましたが、残ってもゴロゴロしているだけですし、
結局家事をするのは私です。それに聞いて来たその言葉
には私を心配している感じが全く伝わって来なかった・・・
なので、夫にはひとりで帰省してもらうことにしました。
夫は私を残して帰省して行き、私はひとり、ベッドの中で
(何してるんだろ・・・もっとシッカリしないとイケナイのに
こんな事で倒れるなんて・・・・)と、自分の不甲斐なさに
ガッカリしながら丸一日を寝て過す事になってしまいました。
2日目になると家にあったお薬が効いてきたのか
幾分楽になり、家の中の事くらいは出来るように
なっていました。でも・・・ひとつやっては休み、またひとつ
やっては休みの繰り返しで、まだまだ全快には程遠い
感じです。
と言うか、朝よりも悪くなって来てる感じ・・・。
いつもなら二時間もあれば終わる家事も、お昼過ぎまで
掛かってしまい、とうとうそこでダウン・・・・。
ベッドに倒れ込み・・・(あぁ・・身体がだるい・・・もう動き
たくない・・・でも、ゴハンも食べないと・・・う~ん・・
作る気にもなれないし・・・・・食べたくない・・・・
なんだか熱っぽいし・・・・・・・)
ボーっとする頭でそんな事を考えていると、そのまま
うたた寝をし始め・・・頭痛と発熱の中を私の思考は
漂っていきました・・・。
そのボンヤリとした思考の中にメールの着信音が聞こえ
ています・・・・。
面倒な気持ちでしたが仕方がなく携帯の画面をみると、
それは彼からのメールでした。
私は夫と帰省している事になっているし、彼も帰省中の
筈です。何故そんな時にメールなんか・・・・
不思議に思いながらもメールを開くと
「今すぐ身支度をして外に出て。家の施錠も忘れずに。」
全く意味が分かりません。でも、私は言われるまま
重い身体を起こし、最小限の身支度を整えて私は家を
出ました。でも・・・やはり足元がおぼつきません。
と言うより、何かに掴まりながらでないと今にも倒れて
しまいそう・・・。
家を出ると私の前に一台のタクシーが駐まり、ドアが開き
ます。(え?・・・・・なに・・・?)
思わず後ずさりする私に向かって
「乗って!」
とタクシーの中から声が!(え?・・・ウソ・・・なんで・・・?)
その声は紛れもなく彼の声だったのです!
状況が全く把握出来ず、体調のせいで思考も上手く働き
ません。
夏の午後の日差しは容赦なく私に降り注ぎ、軽い目まいを
感じます・・・。私はふらつきながら彼の声がしたタクシーの
中に倒れ込む様に身体を滑り込ませましたが、
タクシーに乗った途端、私はまた貧血を起こし、目の前が
暗くなって何も考えられなくなってしまいました・・・。
しばらくして車の走る振動と音に気が付き、私は優しく
肩を抱かれています。
(あれ・・・え~っと・・・・タクシーにのって・・・・・)
未だぼんやりする視界を横に向けると、そこには居る筈も
無い彼がいました。私はふんわりとした微睡みの中で、
(あぁ・・・これは夢なんだ・・・・でも・・・こんな夢なら・・・・・)
そんな事を考えながら身体の中から意識がスゥ~っと抜け
落ちて行くのを感じ・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・」
私はベッドの中で目を覚ましました。
いったい何時間眠っていたのか・・・辺りはすでに
日が落ちていて暗くなっています。
(あぁ・・頭・・・痛い・・。熱も上がっているみたい・・・・
今は何時頃なんだろう・・・身体も・・痛い・・・・)
私はぼんやりとした意識の中でそんな事を思い、ベッドの
中でモソモソとしています。
(シッカリしなきゃイケナイのに・・・あんな夢を見るなんて、
彼に甘えてる証拠よね・・・ダメだな~・・・わたし・・・・)
夢うつつの中でそんな事を考えていると、少しずつ意識が
戻って来ました。そして意識が少しずつ戻るに連れて、
私は妙な違和感を感じ始め・・・
それはシーツや布団の感触・・・ベッドの沈み具合・・・
そしてお部屋の雰囲気に至まで、全て家のそれとは違って
いたのです。
(あれ・・・・え・・・・なに・・・・?)
私は慌てて上体を起こしました。でも次の瞬間、目の前に
チラチラとした光の粒子が舞い、平衡感覚を失い・・・
戻り始めていた意識が遠のいて行くのを感じ、
遠くで「ドスンッ」と物が落ちたような音が聞えました。
消えて行く意識の中で誰かの声がした・・・ような・・・・。
(さっきよりも・・・頭が・・・痛い・・・・それに身体も・・・
左肩が・・・特に・・・・・)
曖昧な意識の中で、痛みだけを感じています・・・。
さっきは真っ暗だったのに、今は少し明るさを感じます・・・
(もう・・・夜が明けたの・・・・?・・・・)
重いまぶたを開けて見ても、視界はぼんやりとしたまま・・。
でも、我家の天井で無いのは判りました・・・。
(ここは・・・・?)そう思っても、さっきのように上体を起こす
気力もありません。
私は人の気配を感じ、ゆっくり左に顔を向けました。
未だにぼやけた視界の中に居るはずの無い彼の顔が
滲んで見えます・・・・。
彼は何か言っているようですが、その声はすごく遠くで
ボワ~ンと響いているだけで何を言っているのか判り
ません・・・。
(あぁ・・・まだ夢の中なの?・・・それとも幻覚?・・・・・)
滲んで揺れる彼の顔は、重いまぶたに遮られはじめ・・・
響いている声も段々遠のいて行きました・・・・・・。
野鳥のさえずり・・・そして昇る朝日の明るさで、私は
目を覚ましました。
未だに身体のだるさや頭痛は残っていますが、熱はウソの
様に引いています。
私は周りを見回しました。そこは我家では無く、彼の家の
寝室だったのです。
(どうして・・・彼の家に・・・・?)
私は訳が分からず、これが現実なのか夢の続きなのかの
判断も出来ずにいました・・・。
横を見ると、椅子に座り、腕組みをしたまま眠っている彼が
居ます。
私は彼に手を伸ばし、ささやくように
「・・・・あなた」
と眠っている彼に声を掛けました。
彼は一瞬ピクッと身震いをすると、驚いたように目を覚まし
伸ばした私の手を両手で包み込むと
「昌子!気が付いたのか?私の言っている事が判るかい?」
と、叫び出しそうな気持ちを必死に抑えながら、優しく語り
掛けてくれて・・・、
「うん・・・わかるわ。もしかして・・・・・一晩中付き添って
くれていたの?」
「あんな状態の昌子を放っておける訳がないだろう?」
「ごめんなさい・・・また心配かけちゃった・・・ダメね・・私・・」
「いや、謝らないでくれ。私こそ昌子の体調の変化に気が
付けなくて・・・済まない事をしたと反省しているんだ。」
「ううん・・・・・でもどうしてアナタが居るの?帰省中の筈
でしょ?」
「まぁ、その話しは後にしよう。とにかく何か食べた方が
良い。お粥でも作って来るよ。食べれそうかい?」
「あ、もう大丈夫だから私が・・・」
「ダメだよ!昨日だってベッドから落ちたじゃないか!」
「え・・・・」
「やはり覚えてないんだね? 私が部屋でクスリを探す
為ににちょっと席を外したらいきなりドスンッて音がして
慌てて戻ったら、頭を下にして昌子がベッドから落ちて
いたんだよ。」
「ま・・まさか・・・ホントに?」
「そのまさか・・だよ。きっと無意識に起きようとしたんだね。
幸い必要ならと出しておいた毛布の上に落ちたから
怪我は無かったけど・・・本当にビックリしたよ。」
(そういえば・・・ドスンッて音がした記憶が・・・それが
私が倒れた音だったなんて・・・・)
「それは良いとして。今は余計な事を考えずにゆっくり
身体の回復に専念する事だよ。」
そう言うと、彼は優しく微笑みながらお部屋を出て行き
ました。
私はベッドの中で、彼に心配を掛け・・・オマケに看病まで
させてしまっている事への申し訳なさと、
心配してくれる人が居る・・・その嬉しさでとても複雑な
気持ちでした。
でも・・・・嬉しさの方が大きい・・・かな・・・ (*^_^*)
その日から2日間、私は彼の献身的な介護を受け、
普通の生活が出来るまで回復していきました。
そして彼からそれまでの経緯を説明してもらいました。
それは彼が帰省したその日の夜、姉さんからの連絡を
受けた時から始まります。
「あの子とのメールのやり取りで、体調を崩し一人残って
静養していることを知りました。あの子は大した事は無い
と言っていますが凄く心配です。
とても嫌な予感がします。きっとひとりで無理しているに
違いありません。本当なら私が行ってあげたいのですが
今はどうしてもココを離れる事が出来ません。
無理なお願いとは思いますが様子を見に行って頂けない
でしょうか?」
そう伝えられ、彼は愕然としたそうです。彼も私が
多少疲れているとは感じていたそうです。ですが
「ちょっと夏バテ気味なだけ。」と笑っていたので
まさかそこまで体調を崩していたとは思いもしなかった。
翌日、彼は朝一番の新幹線でトンボ返りし、駅からタクシー
で私を向かえに来てくれたのですが、乗り込んできた私が
ヘロヘロの状態・・・そのまま病院に連れて行こうかとも
思ったそうですが、私達の事情が事情なだけにそれも
出来ず、仕方なく家に連れて帰ったそうです。
ベッドに寝かし、体温を測ると40℃近い発熱!
私の意識も曖昧で声を掛けても返事すらしない・・・。
こんな状態ではクスリも飲ませられない。
どうしたら・・・と思案していた時にあることを思いだした
そうです。それは去年、彼も高熱を出して診察を受診した
際に吐き気があるので飲み薬が飲めない。と伝えると
先生は座薬を処方してくれて・・・それがまだ冷蔵庫に
何錠か残っていることに気が付いたそうです。
そう・・・恥ずかしながら私は彼に座薬を投与してもらった
のです・・・。(>_<)
でも、そのお陰で熱も下がり、なんとか食事も採れるように
なったのですが・・・・やはり女性としては複雑な気持ち
ですね・・・・・。
私は翌日、彼にタクシーで家の近くまで送ってもらい、
そこから徒歩で帰宅しました。
本当はもう少し一緒に居たかったけれど、明日には夫が
実家から帰って来るのでそうもいきません。
彼の家から出る時、
「この前の話しだけどちょっと考えがあるんだ。だけど
もう少し時間が掛かるからもう少しだけ待っていて
欲しい・・・それまで大丈夫かい?」
「うん・・・ワガママ言ってごめんなさい・・・・」
「それと、もう一度約束してくれ。もう無理はしないって・・・」
「はい・・・あなたにも姉さんにも心配かけちゃった・・・
反省してます・・・・・」
家に戻ってから姉さんに体調が戻った事・・・そして心配
掛けたことへのお詫びをメールしました。
すると姉さんはメールでは無く、直接電話してきてくれて、
「昌子ちゃん?本当にもう大丈夫なの?」
「はい・・・心配掛けちゃって・・・ごめんなさい・・・」
「もうっ、貴女って子は! でも、良かった・・・本当に
良かったわ。うん・・本当に・・・・」
姉さんの声を聞きながら、私は二人に心配かけてしまった
自分の愚かさを改めて痛感していました・・・そしてそれと
同時に、私にはこんなにも親身になって心配してくれる
人達がいる・・・・それがとても嬉しくて・・・・すごく・・すごく
嬉しくて・・・・・・
「・・・・ね・・え・・・・・さ・・・・・・・・・・・・・」
もうこれ以上、心配せてはイケナイと判っていても、
姉さんの声を聞いていると、涙がぽろぽろと零れて来て
しまい・・・何も言えなくなってしまいました・・・・。
「うんっ・・・もう良いのよ。 もう良いの・・・・」
シクシクと泣き続ける私に姉さんは黙って微笑みかけて
くれているのが受話器越しからもヒシヒシと伝わって
来ます・・・。
二人の優しさ・・・暖かさが薄桃色のオーラとなって私を
包んでくれている・・・こんな私を守ってくれている・・・
その実感は少しの戸惑いを伴いながら、私の心を温め
続けるのでした・・・・・・。
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